作りは粗いが主役3人の瑞々しい演技が好印象。
「ションベン・ライダー」(1983日)
ジャンル青春ドラマ・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 中学生のジョジョ、ブルース、辞書は仲良し3人組である。いつもガキ大将のデブナガに虐められていたが、そのデブナガが人違いでヤクザに誘拐されてしまった。日頃の仕返しをしてやろうと3人はデブナガを追いかけた。そして、その先で厳平というヤク漬けの中年男に出会う。彼は今回の事件を起こした主犯格だった。しかし、部下の身勝手な暴走でデブナガは名古屋に拉致されてしまったという。早速3人は名古屋へ向かうのだが‥。
楽天レンタルで「ションベンライダー」を借りよう映画生活ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 若者たちのひと夏の冒険を快活に綴った異色の青春犯罪映画。監督は名匠・相米慎二。
若者の大人への反抗というテーマ自体、大変俗っぽいが、しかし相米監督の手にかかれば決して甘ったるい鑑賞感ばかりに堕さない。幾ばくかのほろ苦さが加味され、ある種正しい青春ドラマがキッチリと確立されていると思った。
ただ、この頃の相米作品はまだ初期時代ということもあり、決して完成度が高いわけではない。そこだけを取って観てしまうと後期の作品よりも見劣りしてしまうことは確かである。しかし、一方でまだ若かりし相米監督の荒々しいタッチには洗練される一歩手前の魅力も感じられる。この当時にしか撮れなかった作品だということを考えれば、これはこれで面白く見れる。
まずは、相米監督と言えばなんと言っても長回しである。今作には所々でそれが炸裂している。
例えば、冒頭の約10分にも及ぶ長回しはテクニック的には稚拙だが、画面の賑々しさ、スピーディーな事件展開で一気に画面に引き込まれた。
3人が厳平の根城に侵入するシーンも然り。拳銃という危険極まりない小道具を使って、ジョジョたちと厳平の対峙を1カットでスリリングに捉えている。
極めつけは貯木場のシーンであろう。皆が川に浮かぶ不安的な木材の上を走りながら、実にみっともない追跡劇が繰り広げられている。リアルに描けば本当に怖いのだが、そもそもこの誘拐犯はどこからどう見ても間抜けで拳銃の扱いもままならない。そのためまったく緊張感が感じられず、むしろ滑稽に写り、どこか"祝祭感”さえ漂う。
自分は相米慎二の長回しの魅力とは、正にこの"祝祭感”にあると思う。編集で誤魔化すのではなくリアルタイムで役者の生身のアクションや事象を捉え、映画にリアリティと興奮をもたらす。それが彼の長回しの一番の効果だと思う。それによって、俳優は活き活きと画面に息づき、観客は彼らに愛着感を持つに至るのだ。今回、自分は3人の若者たち旅に同行しているような‥そんな親近感を持って、この映画を観ることが出来た。全ては"祝祭感”に満ちていたからである。
一方、相米監督は時々意味不明な演出を出して、見る側を混乱させるような所がある。今回も幾つか不自然に思えるシーンがあった。
例えば、熱海のホテルのシーンで、部屋の窓から見える花火があからさまに合成になっている。これは何か意味があって敢えて狙ってやっているのか?あるいは予算的な原因なのか?よく分からなかった。また、遊園地の観覧車のシーンで、3人がフェイス・ペンティングをしていたのだが、これも意味が分からなかった。クライマックスで突然、歌が飛び出すのも理解に苦しむ。
そもそも今作はストーリー的にも突っ込み所が多い。デブナガが誘拐された理由も、それを3人が追いかける理由も、今一つ説得力が感じられなかった。
キャストでは、主演を務めた3人の、はつらつとした演技が良かった。永瀬正敏、坂上忍、河合美智子が、夫々に映画初出演・初主演を果たしてる。まだ若いという事もあり演技力を言ってしまうと大変苦しいものがあるが、ナチュラルさを前面に出した所には好感が持てた。叫び、走り、泣き、笑いといった感情の噴出をダイレクトに体現することで画面に躍動感をもたらしている。
また、3人はかなり危険な撮影に挑んでいることも注目したい。例えば、ブルースが川に飛ぶ込むシーンは、例によって相米監督らしい1カットのロングショットで捉えられているのだが、よくよく考えたらスタントもなしでよく飛び込んだな‥と驚かされた。自転車に乗ったジョジョがトラックの荷台に飛び乗るシーンも、かなり危険な撮影である。もし怪我をしたら‥と冷や冷やだった。ただ、こうしたライブ感を意図した長回しにこそ相米監督の真骨頂があるわけで、3人ともそれを理解した上でこの演出を受け入れたのだろう。その後3人とも出世したことを考えてみても、彼らはただの可愛い、格好良いだけのアイドル俳優ではない。
一方、厳平役の藤竜也は流石の貫録を見せている。麻薬に溺れた中年ヤクザという役どころを、時に激しく、時に悲哀を滲ませながら好演している。3人の若者たちを冷めた態度で突き放しながら、心のどこかでその若々しさに嫉妬している‥。そんな複雑な心情も見事に表現されていると思った。