若枝を演じた和泉雅子の熱演が見物。
「非行少女」(1963日)
ジャンル青春ドラマ・ジャンルロマンス
(あらすじ) 仕事に失敗して故郷に戻ってきた青年・三郎は、昔なじみの少女・若枝と再会する。若枝は学校にも行かずみすぼらしい格好で町を彷徨っていた。不憫に思った三郎は彼女にスカートと靴を買ってやった。若枝の家には、一日中飲んだくれている父親と意地悪な継母がいた。家に彼女の居場所はどこにもなかった。一方の三郎も実家にはいずらい身だった。兄が町会議員に立候補し家族総出てその応援に忙しく、彼は肩身の狭い思いをしていたのである。二人は孤独な者同士、固い絆で結ばれていくようになる。そんなある日、若枝が盗難罪で捕まってしまう。この事件をきっかけに二人は離れ離れになってしまう。
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(レビュー) 荒んだ青春を送る若い男女の悲恋をしみじみと綴った青春ロマンス作品。
「非行少女」というタイトルから何となく陰鬱とした青春物をイメージしていたのだが、そんなことはなく実に清々しく、切なく見れるメロドラマだった。
劣悪な家庭環境に育った若枝は、親から虐待を受け、学校にも行かせてもらえない可愛そうな少女である。見ていて実に不憫極まりないが、だからこそ、そんな彼女が三郎にだけ心を開いていく過程にはしみじみとさせられた。若枝に幸せになってもらいたい‥という感情が自然と沸き起こり、この初々しい恋愛にはついつい見入ってしまった。
特に後半からの展開が良い。若枝は児童相談所に送られ徐々に更生の道を歩んでいく。やや見慣れたエピソードと言う気もするが、隣人との衝突、融和というドラマが丁寧に紡がれ、尚且つ彼女の成長もしっかりと描かれている。安定感のある語り口で安心して見ることが出来た。
また、その中で彼女は孤独から解き放たれ、自分の進むべき道をしっかりと見据えていくようになる。そのきっかけが愛する三郎との別れだったのは実に皮肉的なことだが、成長とはそういうものである。何らかの苦難を経て初めて人間は成長できるのである。彼女のこの成長には、ドラマとしてのカタルシスが十分に感じられた。
監督・共同脚本は浦山桐郎。監督デビュー作「キューポラのある街」(1962日)で、まだ若かりし吉永小百合から瑞々しい演技を上手く引き出した氏が、今回も同じような年頃の少女を主人公にしている。ただし、今回の若枝は、親思いでしっかり者だった吉永とは正反対に、親から見捨てられた不良少女である。凛とした佇まいで優等生的な魅力を放っていた吉永に比べると、どこにでもいそうな平均的な少女で、よりリアルに造形されている。浦山監督はそんな若枝を突き放して描きながらも、幾ばくかの愛情を示しながら彼女の成長を丁寧に筆致している。
若枝を演じるのは和泉雅子。前半の荒んだ表情、三郎との交流における純な表情、そして更生するに連れて引き締まっていく後半の表情。実に幅広い演技を見せ好演している。
特に、印象に残ったのは、若枝が児童相談所に連れて行かれるシーンである。雨が降る中、窓越しに見送る父親との対面は、彼女の絶望感をひたすら悲しげに見せている。この時に父を睨みつける眼差しが絶品だった。
また、雪の中のラブシーンも印象に残った。ここは音楽も泣かせるのだが、久しぶりに再会した若枝と三郎が窓越しにキスをする今作一番の名シーンとなっている。切ない恋心をロマンチックに体現している。
全体的に浦山監督の演出は明快でエモーショナルである。火事のシーンなどの大掛かりな撮影もそつなくこなしていて実に堅実だと思った。
ただ、若干過剰に写る場面もあって、例えばクライマックス・シーンなどは少々演出が気負いすぎて入り込みづらい。三郎の主観で捉えた周囲の喧噪が、突然シュールで眩惑的な映像に切り替わるのには違和感を持った。その後の彼のセリフも、別れたいのか、別れたくないのか今一つはっきりとしないし、最後にタバコを燻らせるのもいかがなものか‥。ここはもっとストレートに悲しみの表情で締めくくっても良かったのではないだろうか。その方がしっくりとくる。
尚、全然関係ない話になるが、劇中には若枝と三郎だけの隠れ家が登場してくる。これを見て
「あらかじめ失われた恋人たちよ」(1971日)を思い出した。あそこに出てきた隠れ家も丁度こんな感じの海辺の廃屋だった。しかも、「あらかじめ~」は過去の学生運動のアジトだった所で、こちらは過去の基地反対運動派のアジトである。まるで時間が止まってしまったかのような過去の闘争の場所が、若い男女の隠れ蓑になっているところが面白い。主人公たちの置かれている状況を惨めに見せる舞台としては、この寂れた感じが中々似合っていると思った。
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とてもいいブログですね。また閲覧しに来ますので、これからも更新頑張ってください!
by サ高住ケアあおぞら
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