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飢餓海峡

映像、演出、ストーリー。全てに魅せられてしまう。
飢餓海峡 [DVD]飢餓海峡 [DVD]
(2011/11/01)
三国連太郎、高倉健 他

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「飢餓海峡」(1965日)星5
ジャンルサスペンス・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 昭和22年、北海道の岩内で大規模な火災が発生する。犬飼と刑務所から脱獄した沼田、木島の3人が強盗殺人を隠ぺいするために放火したのだ。3人は青函連絡船に乗って逃走を図る。しかし、嵐に巻き込まれて船は沈没した。現場に駆けつけた函館警察の弓坂刑事は、大勢の死体の中から2名の身元不明の死体を発見した。その後、一命をとりとめた犬飼は下北半島の温泉地へ逃亡した。そこで八重という娼婦と出会う。八重は病気の父と借金を背負う不幸な女だった。それを知った犬飼は盗んだ金を分け与えて去って行った。八重は犬飼に感謝し、それを元手に借金を返済して東京に出ようとした。そこに犬飼を追いかける弓坂刑事が訪ねてくる。
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(レビュー)
 同名小説を名匠・内田吐夢監督がミステリアスに描いたヒューマン・サスペンス。
 尚、本作は公開短縮版と監督自身の手による完全版の二つのバージョンが存在する。今回は完全版の方での鑑賞である。

 前半は強盗殺人放火事件と連絡船沈没事件、二つの事件をリンクさせたサスペンス劇になっている。弓坂刑事の捜査を軸にしながら犬飼の逃走劇がハードに描かれ、特に序盤は映像的なダイナミックさも相まって中々の迫力が感じられた。
 その後、犬飼は逃亡の果てで貧しい娼婦・八重と出会う。ここから物語は本題に入っていく。彼女の胸に抱かれ暫しの安堵を手にした犬飼は、盗んだ金を彼女に分け与えて去って行く。当の八重はそれが盗んだ金とは知らず犬飼に愛を募らせていく。こうして二人は結ばれぬ運命を辿っていく。

 映画中盤は、八重の犬飼に対する愛を描くパートとなっている。軽快なストーリーながら八重の心情は漏れなくトレースされており、彼女の求愛は見ているこちらに痛々しいほど伝わってきた。
 また、戦後間もない頃の貧困村の実態、財産に目がくらんでしまう人間の業という物も読み取れ、善と悪の意味を問うた骨太なドラマとなっている。

 物語が後半に入ってくると、再び警察の捜査を中心としたサスペンスに切り替わる。ある事件が起こり、それがきっかけで犬飼は追い詰められていくようになる。ここには八重の気持ちに応えられなかった犬飼の断罪が重々しく描かれており、罪に罪を重ねてしまう犯罪者心理が克明に記されている。人間の悪心を冷徹に切り取った所に作り手サイドの気概が感じられた。

 本作は約3時間に及ぶ大作である。中々一気に見るのにはしんどい時間だが、いったん入り込めれば流麗な展開と息詰まるような心理劇によって、その長尺がまったく苦にならない。また、普通なら救いを与えてヒューマニズムに傾倒しがちなドラマを、敢えて大胆に外してきた所にも見応えが感じられた。戦後の貧しい地方農村や都会の闇市といった社会的背景も作品世界をしっかり支えており、実に歯ごたえのある作品に仕上がっている。

 内田監督の演出も力がこもっている。まず、16ミリのモノクロ映像を35ミリにブローアップして粒子の粗い映像にしている所が面白い。重苦しさ、荒々しさ、ドキュメンタリズムを見る側に印象付け、人間のどす黒い業を浮かび上がらせた映像処理が実に効果的である。犯行シーンを悪夢のごときネガポジ反転処理した演出も面白いと思った。また、恐山のイタコなどはホラー映画さながらの怖さが感じられ、全体的に禍々しいトーンが横溢している。

 カメラワークも見事である。捜査室内を均整の取れたショットで繋げたカメラ・アングルの見事さは特筆に値する。その一方で、今作は移動ショットも多く、特に八重が住み込みで働く闇市のセットを俯瞰ショットで延々と捉えたシーンには惚れ惚れさせられた。

 キャストも皆好演している。犬飼を演じた三國連太郎は、捜査をのらりくらりと交わす食えない演技で犯人の憎々しさを見事に体現している。もはや神がかり的な演技と言っていいだろう。

 八重を演じた左幸子は一途な女心を清流に体現している。犬飼の爪を後生大事に懐に抱える様は、もはや病んでるとしか言いようがないが、その奇妙さも含めて印象深い演技だった。

 犬飼逮捕に執念を燃やす弓坂刑事を演じた伴淳三郎の熱演も素晴らしい。
 弓坂は犬飼を捕えられなかった責任から刑務所の看守に左遷されてしまう。一連の事件で最も運命を狂わされてしまったのは、実は彼かもしれない。終盤、彼は犬飼逮捕の最後のチャンスにかけるが、この時の伴淳の演技は絶品である。普通ならば力演したくなる所を、敢えて疲弊しきった表情で演じている。老成円熟の域に達したと言わんばかりの演技は実に味わい深かった。更に、彼は仕事の鬼に徹する一方で、息子たちとの間では素の人間=弓坂も体現している。この情愛も味わい深かった。弓坂というキャラクターをとことん掘り下げた伴淳の演技は、主演二人に引けを取らないくらい素晴らしいものがある。

 一方、この映画で難点を上げるとすれば、サスペンスの弱さかと思う。証拠が十分揃っていないのに逮捕を急いだ東舞鶴警察のやり方は、素人目から見てもお粗末と言うほかない。自信満々で犬飼の取り調べをする姿が若干滑稽に写ってしまった。緊張感が漂うトーンにこうした突っ込み所は残念だった。
[ 2013/09/02 23:34 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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