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ヒーローショー

「ヒーロー」=「暴力」というアンチテーゼにノックアウト!
ヒーローショー [DVD]ヒーローショー [DVD]
(2010/11/26)
後藤淳平(ジャルジャル)、福徳秀介(ジャルジャル) 他

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「ヒーローショー」(2010日)star4.gif
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ)
 お笑い芸人を目指して上京した青年ユウキは、元相方の剛志に誘われてヒーローショーのバイトを始める。ところが、来て早々、剛志が恋人をメンバーのノボルとツトムに奪われたことでステージは大乱闘になってしまう。剛志は知り合いのチンピラに頼んでノボル達を恐喝した。すると、今度はツトムが兄の拓也に相談し、幼馴染で元自衛隊員の勇気に報復を依頼する。こうして抗争は激化し、ユウキは取り返しのつかない事件に巻き込まれてしまう。
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(レビュー)
 暴走する青年達の姿を過激なバイオレンスシーンで描いた青春映画。

 本作を見てL・クラーク監督作の「BULLY/ブリー」(2002仏米)を思い出した。若者たちの無軌道な暴力を社会風刺の中に描いた「BULLY/ブリー」は、色々な点で本作と相関する。どちらも、若者たちの鬱屈した感情が見えてくるような作品である。ただ、大きな違いもあって、今作は暴力を犯した"罪"に重点を置いて作られている。暴力へ傾倒していく過程に重点を置いた「BULLY/ブリー」とは違ったアプローチになっており、そこに虚無的だった「BULLY/ブリー」にはないドラマチックさがある。言わばこの「ヒーローショー」は、ユウキ達の"罪と罰"のドラマとなっている。

 監督・脚本は井筒和幸。こうした粗野な青春映画を撮らせれば上手い監督で、過去には「岸和田少年愚連隊」(1996日)という関西青春グラフィティ物がある。ただ、今回は「岸和田~」等で見られるコメディトーンは抑制され、完全にシリアスな青春ドラマになっている。中々骨があって面白く見れた。

 物語はユウキと勇気、同じ名前の二人の青年の関係を中心に展開されていく。ユウキはお笑い芸人を目指す気弱な青年で、勇気は元自衛隊員でバツイチ子持ちの女性との結婚を考えている大人びた青年である。物語前半は、ヒーローショーのバイト仲間の痴話喧嘩を発端にした報復合戦で展開される。その結果、中盤である取り返しのつかない事件が起こり、それによってユウキと勇気の運命が狂わされていく。

 最も印象に残ったのは、中盤のユウキ達と勇気達のグループの喧嘩のシーンだった。ここでのリンチはかなりねちっこく撮られている。おそらく井筒監督も相当力を入れたのだろう。増幅していく憎しみが徐々に暴力をエスカレートさせていく過程は見ていてかなり恐ろしかった。普段ならいじめられっ子であろうツトムでさえ、我を忘れてリンチに加担してしまう。ある種、これは集団心理の恐ろしさとも言えるが、このカオス感がたまらない。また、暴力を振るう人間とそれを静止する人間、夫々の立場が目まぐるしく入れ替わるのも、かなり恐ろしかった。ほとんど躁状態である。

 ただ、一方で恐ろしいとは思いながらも、何故かそれを見て興奮する自分もいた。血なまぐさい暴力から目を離せなかった。そう思えてしまう一番の要因は、リンチの標的にされる青年が傲慢で傍若無人なキャラクターだったからだろう。彼に酷い目に合されてきた青年達の報復にはある種の爽快感が感じられ、自分も暴力という名のウィルスに感染してしまったかのような感覚に捕われた。実に恐ろしいことだが、それだけこのシーンには力強さとリアリティがある。

 後半からは、この暴力に加担したユウキと勇気の関係を中心に、夫々の運命が語られていく。周縁のドラマがやや散文的で食い足りず、前半で見られたようなスピード感、迫力が失われてしまったのは残念だったが、ユウキと勇気の人生の対比、そこから生まれる二人の葛藤は見応えがある。

 また、勇気と拓也の微妙な関係も面白い。二人は友人関係ではあるが、決して親友というわけではない。拓也は勇気を最強のヒーローと持ち上げているが、それは本心ではないだろう。上手く利用してやろう‥。その程度くらいにしか思っていないはずである。そして、それを知ってか、勇気も拓也には決して本心を見せない。この二人の抜き差しならぬ関係は場面場面によって変化する。その時の夫々の心理を想像してみるとこの関係はかなり面白く見れる。

 ラストは、実にしたたかに締めくくられている。安易に結を下さなかった幕引きに賛否あろうが、ラストの「SOS~♪」がユウキの心を代弁しているかのようだった。おそらく彼の前には荊の道が広がっているだろう。しかし、罪を犯した者には一生罰がついて回る。この苦々しさもまた真理である。ズシリと余韻を引く終わり方だった。

 シナリオについては所々で穴が目につく。例えば、中盤のリンチ事件の社会的影響はほとんど描かれておらず、どうにも不自然に映ってしまった。また、あの30万はどうなったのか?どうして場所を突き止められたのか?よく分からない。他人の映画を見る目が厳しい井筒監督のこと。観客に対しても決して親切な作家ではない。そのあたりは想像してくれ‥ということなのかもしれない。

 主演二人を演じたジャルジャンの演技は良かった。かつて「岸和田少年愚連隊」でナイナイを見事に演出した井筒監督だが、ここでも再び演技未経験のお笑いコンビを上手く使っている。もちろん、元々のポテンシャルもあるのだろうが、彼らの良い意味での、演技臭くない演技が新鮮で良かった。
[ 2013/09/27 15:36 ] ジャンル青春ドラマ | TB(0) | CM(0)

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