連合赤軍の映画撮影スタッフに迫った人間ドラマ。
「光の雨」(2001日)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 連合赤軍の同志リンチ事件を描いた小説「光の雨」の映画化が決まる。CMディレクターの樽見がメガホンをとることになり、早速オーディションが始まった。そして、その製作現場を若き映画監督・阿南が撮ることになる。キャストが決まると撮影隊は知床の雪山で合宿ロケをスタートさせた。しかし、若い俳優たちにとって、当時の学生運動を理解するのは難しく撮影は途中で行き詰ってしまう。その時、樽見に差出人不明の一枚のハガキが届く。翌朝、樽見は撮影を放り出して行方をくらましてしまった。こうして後に残された阿南が監督を引き継ぐことになるのだが‥。
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(レビュー) 連合赤軍の同志リンチ事件は、
「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」(2007日)で詳しく描かれていたので、ある程度は知っていた。今改めてこの凄惨な事件を見せつけられると、実に居たたまれない気持ちになってしまう。今作は製作された順番から言うと「実録・連合赤軍~」よりも先である。鑑賞が前後してしまったが、もし今作を先に見ていたら、かなり衝撃を受けただろう。
監督は高橋伴明。元々はピンク映画出身で、日本初のヘア・ヌード映画「愛の新世界」(1994日)を撮った監督としても知られている人である。「愛の新世界」は性に奔放な女性の生き様をインモラルなシーンの連続で描いた作品だが、初のヘア・ヌードという宣伝文句の割にそれほど淫靡さは無く、むしろどこか清々しく見れる青春映画だった。そして、こうしたエロティックな映画を撮る一方で、この監督は今作のような社会派的な眼差しを持った硬派な作品も撮り上げる。また、このブログでは以前、同監督作の
「火火(ひび)」(2005日)を紹介したことがある。これなどは、陶芸家として成功していく女性のドラマ、骨髄バンク創設に尽力していく社会派的なドラマ、この二つが見事に融合した佳作だと思う。このように高橋伴明という監督は、一つのジャンルに固定されない器用な側面を持った作家と言える。
そして、彼の作品の大きな特徴は、いずれの作品からも力強いパッションが感じられる‥ということである。彼の演出はメロウで変に小難しい所はない。それゆえメッセージもストレートに伝わってくる。今作のように作品のモティーフにはかなり癖があるが、作り自体は大変明快で親しみやすい。
尚、今作でその資質が最もよく伺えたのは、阿南が失踪中の樽見を見つける劇場のシーンである。ようやくの思いで見つかった樽見だが、彼は撮影に戻らないと言う。その理由が、過去の悲劇と共に彼の独白で語られる。阿南とプロデューサーはその意を汲み、残りの撮影に邁進していくことを決意する。この展開、演出はかなり浪花節的である。
また、クライマックスに登場する光の雨のシーンなどは、幻想的なタッチで美しく撮られている。これも実にケレンに満ちた映像演出である。
ただ、こうした抒情的な演出は、やり過ぎてしまうとかえって無粋に見えてしまう場合もある。このさじ加減は実に難しい。個人的には、窓ガラスに写る倉重、上杉の独白、死体の目がグルンとひっくり返るといった演出には、受け付けがたかいものがあった。過剰で萎えてしまう。
物語は、撮影隊を追った現実のパートと、「光の雨」の劇中パートの2部構成になっている。撮影隊を追ったパートは、監督の樽見の疾走とそれを引き継いだ阿南を中心にして描かれている。劇中パートの方は、凄惨なリンチ事件を中心にして描かれている。前半は主に現実パートを、後半は劇中パートを中心に構成されている。
見応えを感じたのは、やはり劇中パートの方だった。「総括」と称して次々とメンバーをリンチしていく過程がじっくりと描かれていて、かなりの迫力が感じられた。ただ、「実録・連合赤軍~」の鬼気迫る圧迫感に比べると、本作は映画の中のドラマという形式になっているので、再現映像的なバーチャル感がある。その分、ソフトに感じられた。
尚、若い俳優たちが、自分の役や当時の事件についてどう考えているのか?それがメイキング映像を撮っている阿南のインタビューで告白されるのだが、これも興味深く見れた。ほとんどの若者たちが理解できないと答える。確かにそうだろう。その当時に生きた人間でさえ、この凄惨なリンチ事件を理解できた者などそういない。演じる側でありながら、それを理解できないという所に彼らの苦悩が見えてくる。俳優というのは大変な仕事である。
尚、キャストでは上杉を演じた祐木奈江が印象に残った。彼女はデビュー時こそトレンディドラマに出演しアイドル女優的な扱いを受けていたが、昨今は単身渡米し、D・リンチ監督の怪作「インランド・エンパイア」(2006米ポーランド仏)やC・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」(2006米)などに出演している。最近は演技派としての着々と実績を積み上げている最中である。今作ではボソボソと早口でしゃべる陰険な女性リーダー役を嫌らしく演じていて良かった。