エノケンが駆けずり回る痛快コメディ。
「エノケンのちゃっきり金太」(1937日)
ジャンルコメディ・ジャンル古典
(あらすじ) 江戸時代末期、スリの名人金太は、侍の懐から財布を盗んでは博打にのめり込む甲斐性無の男だった。ある日、盗んだ財布の中に薩摩藩の密書が入っていたことから騒動に巻き込まれる。金太は岡っ引きの倉吉と薩摩藩の志士に追われながら東海道を逃げまくるのだが‥。
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(レビュー) しがないスリ名人が明治維新の動乱に巻き込まれながらドタバタ騒動を繰り広げていく痛快コメディ。
何と言っても、金太を演じるエノケンこと榎本健一のリズミカルなアクションが見ていて楽しい。薩摩の侍や岡っ引きから逃げる姿が何ともユーモラスで、とにかくこの映画のエノケンは走りまくる。しかも、身体能力もかなり高く、このあたりは喜劇王チャップリンに通じるものがある。彼らは観客にどう見えたら笑いを取れるのか?そのあたりの動作を本能的に知っているのだろう。
例えば、宿屋での追いかけっこは狭い室内をグルグル回るだけで、傍から見れば何だが子供の喧嘩のように見えるが、そこすらも何とも愛おしく見れてしまう。ひとえにエノケンの動作が可笑しいからである。
金太を追いかける岡っ引き・倉吉の頼りなさげなキャラクターも抜群に良かった。彼は女に弱い間抜けな男で、そこに愛嬌が感じられる。そして、金太とは追う者と追われる者、敵同士でありながら、中々離れられない腐れ縁の関係にある。丁度この関係は「ルパン三世」における、ルパンと銭形のようなもので、いつか現場を取り押さえようと金太から片時も離れようとしない所に、ある種愛情関係も見えてくる。
また、倉吉の方恋慕を描く中盤の宿場のシーンは面白く見れた。相手の女中は実にしたたかでいつか倉吉から金品を奪い取ってやろうと狙っている。同じスリ稼業をしている金太にはそれがあっさり見抜けるのだが、肝心の倉吉にはさっぱり分からず鼻の下を伸ばしっぱなし‥。金太と倉吉が互いに「知らねぇなぁ~」を言い合う所が実に可笑しかった。
今作にはミュージカルシーンも多い。エノケンの軽快な歌も中々リズミカルで様になっている。中盤で芸者を交えて輪になって枕を渡しながら歌うシーンが出てくるが、「うちの女房にゃ髭がある♪」などという歌が披露されている。歌詞が中々面白かった。
尚、公開時は前後編で2時間を超える大作だったらしい。しかし、現存するのはそれを1本にまとめた短縮版で、今回見たのもそちらの方である。切り詰められたせいか、若干ストーリーの食い散らかしが目についたのは残念だった。また、クライマックスからラストにかけての展開が早急に写ったのも残念だった。
ただ、叶う事なら今作を完全な形で見てみたいとも思った。エノケンのシャープでユーモラスな演技や歌は2時間の長丁場もあっという間に思わせるだけの力があるように思う。彼の魅力を堪能するという意味でも、ぜひ完全版を見てみたいものである。