オスカー女優競演が見応えあり。
「あるスキャンダルの覚え書き」(2006英)
ジャンルサスペンス・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) ロンドン郊外の中学に新任の美術教師シーバがやって来る。孤独な中年女性教師バーバラは、彼女の若さと美貌に惹かれながら交友を育んでいく。ある夜、彼女はシーバと男子生徒の情事を目撃してしまう。幸せな家庭、ようやく手にした仕事を失いたくなかったシーバは、バーバラにこの事を口外しないで欲しいと懇願する。バーバラは了承するのだが‥。
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(レビュー) 孤独な中年女性教師と裕福な新任女性教師の偏愛をシリアスに綴ったサスペンス・ドラマ。
本作は、バーバラを演じたJ・デンチ、シーバを演じたC・ブランシェット、二人のオスカー女優の演技合戦が一つの見所である。特に、J・デンチの冷徹な佇まいは圧倒的で、ベテラン女優らしい子細な所作を各所に織り込みながら、病的な中年女性の心理を巧みに体現している。ハイミスの傲慢さ、若く美しいシーバに対する嫉妬と愛をしたたかに織り込んだ所は見事である。
物語はやや単調ながら、タイトルの"あるスキャンダル″に迫っていく作劇は端正に構成されていると思った。女性教師と教え子だった少年の不純異性交遊は、随分前にアメリカでも大きな事件として社会問題になったと記憶している。この映画の原作はそれをモデルにしているそうである。
しかし、今作は事件の真相を暴くことに主眼が置かれているわけではない。あくまで、今作のテーマは、事件を起こした新任女性教師とそれを目撃した中年女性教師の愛憎を深くえぐり出すことにある。したがって、この事件の裏側を知りたい、社会派的なテーマを期待したいと思う人にとっては、肩透かしな作品だろう。ただ、演者陣の素晴らしい演技のおかげもあって、二人の女性教師の愛憎ドラマの方は大いに見応えがある。
例えば、飼い猫の一件はバーバラとシーバの友情に亀裂を入れる最初のドラマチックな事件である。このシーンにおけるJ・デンチの形相は実に恐ろしく、背筋が凍るほどだった。
シーバが教え子と不倫に溺れていく過程も、C・ブランシェットの堅実な演技によって変に浮き足立つような所はない。彼女は一見すると満たされた上流家庭の主婦に見えるが、その実情は違っていた‥ということもよく理解できる。そして、それはバーバラという第三者の目線を通して説得力のある描かれ方になっている。
ただし、バーバラとシーバの家族との関係描写には不満を持った。最初は友好的なのだが、例の飼い猫の一件でシーバの家族は突然バーバラに対して批判的な態度を取り始める。しかも、公の場で激しい罵り合いをするほど険悪な関係になってしまうのだ。彼らの態度の変化が理解できなかった。少なくともここに至るまでに、もっと特別な理由を擁すべきである。そうでなければ、彼らが単にヒステリックな家族にしか見えなくなってしまう。ドラマを展開する上での説明が不十分に思えた。
この映画は後半に入ってくると、このような強引とも思えるような展開が幾つか目につく。行動に説得力が乏しいというか、理が伴っていないというか、要するに性急すぎるのである。それまでの堅実な演出に綻びが出始め、若干興が削がれてしまう場面があったのが残念である。
ラストも少し弱い。あれだけの騒動の後で、果たしてバーバラはこれまでと同じ人生を歩んでいけるとは到底思えない。彼女の孤独は続く‥とした方が、物語のインパクトは増したように思う。そのせいで個人的には映画の鑑賞感が軽くなってしまった。
J・デンチ、C・ブランシェット、両女優の演技については抜群の見応えを感じたが、後半のドラマの弱さ、演出の弛みが仇となり、最終的には少し物足りない作品になってしまった。