荒野を舞台にした異色のロードムービー。
「ガン・ファイター」(1961米)
ジャンルアクション・ジャンルロマンス
(あらすじ) 殺人罪で追われているガンマン、オマリーは、かつての恋人ベルの元を訪れた。しかし、今や彼女は牧場主の妻で年頃の1人娘を抱える身だった。オマリーは何とかベルと寄りを戻そうと、牛追いの仕事を手伝うと申し出た。そこにオマリーを追いかけて保安官のストルブリングがやってきた。逮捕する間、牛追いの目的地まで彼も同行することになるのだが‥。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 荒野を舞台にした愛憎渦巻く異色のウェスタン・ロード・ムービー。
監督はR・アルドリッチ。彼が撮った作品では過去に
「特攻大作戦」(1967米)、
「飛べ!フェニックス」(1965米)を取り上げたが、基本的にアルドリッチは"男臭い快活なテイスト"うぃ信条としている。しかし、今回は意外にもメロウなドラマとなっている。これは脚本家ダルトン・トランボのカラーが反映された証だと思う。
トランボのフィルモグラフィーは実に輝かしい。自身が監督も兼務した唯一の作品「ジョニーは戦場へ行った」(1971米)を初め、「ローマの休日」(1953米)、「スパルタカス」(1960米)、「パピヨン」(1973米)といった傑作群が並んでいる。これらを見る限り、彼は人物内面を掘り起こすエモーショナルなドラマを得意としているような気がする。これはアルドリッチのカラッとしたテイストとは相容れない作家性で、実際、今作を見ても二人の組み合わせは余り成功しているようには思えなかった。明らかに今回はトランボのカラーが強く出すぎてしまい、アルドリッチのカラーは相殺されてしまっている。
ただ、オマリーとストルブリンの関係には、男の意地とプライドをかけた熱き戦いのドラマが静かに息づいている。そこにはアルドリッチらしいダンディズムが感じられた。K・ダグラス、R・ハドソンといった濃い味系の俳優の起用も奏功している。
一方、本作は女優陣が弱い。ストーリーは、オマリーとストルブリングの対立にベルが割って入る三角関係で展開されていくのだが、そこに真性をもたらすべくベルの魅力が足りない。第一にセックスアピールが感じられないのが難点で、このあたりはアルドリッチの悪い面が出てしまったような気がした。元来、彼は女優を魅力的に描くことを得意としていない。いわゆる男性目線から見た”可愛いヒロイン”というのを描くのが不得手なのである。それがロマンス物でもある今作では致命的な弱点となっている。
むしろ、個人的にはもう一人のヒロイン、ベルの娘ミッシーの方に魅力を覚えたくらいで、母のドレスを着てダンスを踊る後半のシーンは印象に残った。ドレスという小道具の使い方も上手かったし、それに乗っかる形でオマリーとベルの心情も上手く表出されており、中々味わいのあるシーンとなっている。このあたりの巧みなストーリーテリングはトランボの技量だろう。
ただ、トランボの脚本は後半のドラマチックな展開など中々上手く組み立てられていたと思うが、細かな点でやや性急さを覚える個所もあり、そこについては少し勿体なく感じた。
例えば、終盤で明かされる"ある秘密”やオマリーの心変わりなどは若干唐突に写った。できることならこのあたりは綿密な前振りを要したかった。また、夫の死に際にベルとミッシーが何のリアクションが無いのもいただけない。いくら酔っ払いのダメ亭主でも、そこに悲しみの言葉くらいはあっても良かろう。
アクション的な見せ場としては、中盤の流砂のシーン、クライマックスの対決シーンが印象に残った。流砂のシーンは、オマリーとストルブリングの間にかすかな連帯感が生まれる重要なシーンで、そこにアルドリッチらしい男気溢れる感情の高ぶりが感じられた。実に痺れるシーンとなっている。また、クライマックスの二人の決闘シーンにもゾクゾクするような興奮が感じられた。
ちなみに、アルドリッチが撮った西部劇で
「ヴェラクルス」(1954米)という作品がある。因縁の宿敵が銃を交える抗争劇は、一人の女を巡って対立を深めていく今作のオマリーとストルブリングの関係に大変よく似ている。物語の舞台も同じメキシコだし、今作には「ヴェラクルス」という地名も登場してくる。