狂気の人体実験を描いたカルト映画。君は生き延びることが出来るか(笑)?
「ムカデ人間」(2009オランダ英)
ジャンルホラー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) ヨーロッパを旅行中のアメリカ人女性、リンジーとジェニーは、レンタカーが故障したため近くの邸宅に助けを求めた。そこには科学者ハイター博士が一人で住んでいた。二人は彼に薬を飲まされ眠らされてしまう----。目を覚ますとそこは実験室だった。ハイター博士はそこで人間を繋げる実験を行っていたのだ。恐怖におののくリンジーとジェニー。二人は脱出を試みるのだが‥。
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(レビュー) 人体実験にのめり込んでいくマッドサイエンティストの恐るべき実態を見世物感覚で描いたホラー作品。
「ムカデ人間」という奇妙なタイトルからも分かる通り、今作はかつてならモンド映画のジャンルに括られそうな代物である。何しろ人間の口と肛門を繋ぎあわせてムカデ人間にするというだけの話なのだから‥。実に露悪的なB級映画で、見る人を選ぶ作品である。
尚、今作は劇場公開時に、そのセンセーショナルな内容からネットなどでカルト的な人気を得た。ある種、怖いもの見たさという人間の心理を上手く突いた売り方だったように思う。こう言っては失礼だが、この内容で一体誰が見るの?と思えるような作品でも、ネットを利用してニッチに盛り上がることはよくある。いわゆる今作もそうして認知されていったカルト映画と言っていいだろう。これもネット時代のおかげである。
ただ、ネットのおかげでカルトな作品に簡単に巡りあえるというありがたさはあるものの、反面、想像しない所で想像しないような掘り出し物に出くわすという体験が減ってしまったのは、一映画ファンとしては寂しい限りである。かつてなら本当に一握りのコアなファンにしか知られていなかったような物が、現代ではごく普通に知られるようになってしまった。カルト映画の意味も大分違ってきたように思う。
さて、今作は物語自体は至ってシンプルである。いわゆる「悪魔のいけにえ」タイプのホラーで、旅行中の二人の女性がマッドサイエンティストに監禁され実験体にされる‥というストーリーである。尚、途中から3人目の実験体として日本人のヤクザが登場してきて、ストーリーに幾分起伏が加えられている。
問題の過激な描写は触れ込みほどではなかった。口と肛門の接合部分は術後の包帯が巻かれているので隠れている。見世物映画としてはやや肩透かしを食らったという感じである。このあたりはエンターテインメントとして成立させるために敢えてソフトな表現にしたのだろう。したがって、全体的には温く感じられた。
今作の見所はなんと言っても、ハイター博士の圧倒的なキャラクターである。この異様な風貌は一度見たら忘れられない。神経質で非人間的で冷酷で‥。彼がなぜ人間と人間を繋げる実験にのめり込んでいるのか?その目的がさっぱり分からない所にアンモラルな変態気質も伺える。実に印象に残るキャラクターだった。
ただし、後半あたりから彼のイメージは徐々に崩れ始めていく。これはホラー映画としては少々勿体ない感じがした。
例えば、失踪者の捜索でやって来た刑事を相手にアタフタと取り乱す所などは失笑物だった。後半から彼はどんどん墓穴を掘っていくので、何だか見かけ倒しの小悪党のように見えてしまった。ホラー映画としては博士の恐ろしさを貫けなかったのが痛い。
もっとも、逆に言えば、ここにもエンターテインメントとしてソフトにしようという、製作サイドの意向が入っているのかもしれない。現に、博士のこの間抜けさにはどこか愛嬌も感じられてしまう。ここは捉え方次第だろう。
他の主要キャラも身体を張った演技で中々奮闘していると思った。中でも、同じ日本人としては、途中から登場するヤクザが注目だ。彼は家族を捨てて海外に逃亡した過去があり、今回の犠牲者の中では唯一ドラマを持たされたキャラクターである。その思いが吐露されるラスト手前の演技は中々魅せる物があった。惜しむらくは、そのバックストーリーをもっと早い段階で見せて欲しかったか‥。終盤で明かされても、取ってつけたようにしか見えないのが辛い所である。