アイディアは面白いのだが‥。
「ステキな金縛り」(2010日)
ジャンルコメディ・ジャンルファタジー
(あらすじ) 失敗続きで後がない女性弁護士エミは、資産家妻の殺害で捕まった男の弁護をすることになる。男は犯行時間に山奥の旅館に泊まっていたと言う。そして、眠っている最中に落ち武者の幽霊に出くわして金縛りにあったと言う。俄かには信じられない証言だったが、エミは藁をもつかむ思いでその旅館を訪問した。すると、本当に落ち武者の幽霊・更科六兵衛が出てくる。エミは六兵衛に裁判に出て立証して欲しいと頼むのだが‥。
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(レビュー) 三谷幸喜監督・脚本によるファンタジックなハートウォーム・コメディ。
三谷監督の中には、かねてから裁判映画を撮りたいという熱望があったらしく、今回の話は長年温め続けていた企画だそうである。その分、思い入れも相当強かったのだろう。その意気込みは評価したい。ただ、その割に演出やシナリオは精彩が欠く。彼の作品作りの持ち味が大衆娯楽の追求であることは重々承知であるが、それにしたってここまでサービス精神が過剰に重ねられると、さすがに気持ち良く乗っかることが出来ない。
確かに楽しめる所もある映画である。幽霊の意志をどうやって法廷で証明するのか?そのアイディアは面白かった。ここでエミが用いる小道具もさりげない形で伏線が張られていて感心させられた。幽霊の姿が公の場で披露された時に卒倒する人々のリアクションも可笑しかった。
ただ、三谷幸喜がやりたかった”法廷”コメディとはこんなものだったのか‥という落胆も感じた。
第一にこの映画は法廷物としてのサスペンスが弱い。幽霊騒動ばかりに執着して肝心の事件その物が放ったからしなのだ。ここはサスペンスを押し出しながら、幽霊騒動と法廷サスペンス。その両方の面白さを狙って欲しかった。
また、法廷映画には法廷映画独特の臨場感、緊張感というものがある。静まり返った空間だからこそ描けるギャグもきっとある筈で、本作にはそこも足りない。これだけブラックでナンセンスな事態は、それだけでもかなり美味しい素材と言えるわけで、それを尽く情に訴える明快なユーモアで塗り固めてしまったやり方には物足りなさを覚える。
他にも演出面での不満が幾つかあった。
一つは検察官の”犬”にまつわるエピソードである。この検察官はエミと真っ向から対立する徹底したリアリストで、このキャラクター・ギャップは大変良いと思う。しかし、彼がどのタイミングで、どんな理由でエミに”敗北”するのか?それがこの”犬”が登場するエピソードになるわけだが、その演出が余りにも軽すぎる。何だか取ってつけたような”敗北”で白けるしかなかった。
第一に、シーンの舞台がレストランというのもいただけない。情緒皆無でつまらない。
加えて、六兵衛が柱の影から”犬”を連れて出てくる絵面も無頓着でドラマチックさにほど遠い。映画を撮る場合、シチュエーションというのは大切である。この場面はそのセンスに欠ける気がした。
また、ラスト直前の法廷シーンも大いに不満が残る。一旦退出したはずの検察官がちゃっかり再登場するという軽薄な演出。これには目を疑った。
三谷幸喜と言えば日本を代表する喜劇作家である。それだけに見る方の目も当然厳しくなってしまうのだが、今例に挙げた批判は、その彼にしてこの演出は無かろう‥という意味で述べたものである。今回は幽霊というファンタジーなドラマなので敢えてマンガチックに料理しているだろうか?だとしても、この作りの甘さは今までに比べてもクオリティが断然落ちてしまう。彼は、かつて「12人の優しい日本人」」(1991日)という傑作を書いた才人である。その才能を知っているだけに、同じ法廷劇を描いた今回の作品は残念でならなかった。
尚、この映画で唯一心の底から笑ったのはタクシーの運転手である。彼がいつの間にか法廷に潜り込んでチラッと顔を見せるシーンには笑った。確かに演出的に強引ではあるのだが、今回登場したキャラの中では造形が出色であった。また、段田も良いキャラをしていた。逆に、インチキ霊媒師・阿部つくつくは、ギャグがしつこくてゲンナリさせられた。