80年代好きにはたまらないファンタジー・ロマンス。
「エレクトリック・ドリーム」(1984英)
ジャンルロマンス・ジャンルファンタジー
(あらすじ) 建設会社に勤めるエンジニア、マイルスは毎朝遅刻しているダメ社員である。彼はスケジュールの管理が出来るようにパソコンを購入し、部屋のドアや家電の操作を全てそれに任せた。ところが、ある日誤ってシャンパンをかけてしまったことから何とパソコンに意志が宿ってしまう。その頃、マイルスが住むアパートに、マデリンという美しいチュエリストが引っ越してきた。彼女が部屋で練習をしていると、通気口を通じてマイルスの部屋から伴奏が流れてきた。彼女はマイルスがそれを演奏していると思った。しかし、実際にはマイルスのパソコンが勝手に音を作って出していたのである。これがきっかけでマイルスは彼女と親しくなっていくのだが‥。
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(レビュー) 意志を持ってしまったパソコンが人間の女性に恋をするファンタジー・ロマンス作品。
今作が製作された頃のパソコンは、まだ現在のように高スペックではなかった。おそらく16bitかそこらだろう。それを考えると、果たしてパソコンに部屋のドアの開閉や家電の管理など可能なのだろうか?という疑問が残る。もっとも、それを言ってしまってはドラマの根底が崩れてしまうので優しく見てあげるしかない。何しろシャンパンを被ったことでパソコンが意志を持ってしまうのだから、あくまでファンタジーと割り切って見るのが吉だろう。
監督はこれが初演出となるS・バロン。彼は元々はミュージック・クリップを撮っていた映像作家で、a-haの「Take On Me」やマイケル・ジャクソンの「Billie Jean」など、数々の作品を手掛けてきた才人である。
そして、その彼に白羽の矢を立てのが、本作で製作総指揮を勤めたR・ブランソンである。彼はかのヴァージン・レコードの創設者にして会長である。ちなみに、本作はヴァージン・レコードが映画に初めて進出した作品でもある。今でこそミュージック・クリップの作家が映画監督に進出するのはそれほど珍しくないが、当時は相当斬新な起用だったのではないだろうか?それもこれもR・ブランソンの手腕と言うことができるかもしれない。
さて、この頃のMTVと言えば、ややバタ臭く感じる物もあるが、そこはそれ。映像に関しては中々のセンスが感じられる。
例えば、マデリンとパソコンが通気口を通してセッションするシーンは、抒情的且つスタイリッシュに描かれていて中々手練れている。何と言っても流れるようなカメラワークが絶品で、二人の間で交わされる愛のささやき(?)が官能チックに演出されている。
また、マイルスとマデリンがアルカトラズ刑務所でデートするシーンも軽快な音楽に合わせて、如何にも当時のPV風なノリである。ここだけを切り取って1本のミュージッククリップとして完成させても十分魅力的な作品になるのではないだろうか。
パソコンがモニターでマデリンへの愛を切なく謳い上げるシーンは、全編CGワークによる映像となっている。これも機械的でありながら中々ロマンチックな仕上がりになっている。
そして、スタイリッシュな映像のバックにかかるポップソングも、80年代の音楽が好きな人にはたまらないものがあるだろう。
尚、音楽を務めたのはジョルジオ・モロダーである。モルダーと言えばエレクトリック・ポップの草分け的存在で、当時は映画音楽にも積極的に取り組んでいた頃である。彼が手がけた代表作と言えば「フラッシュダンス」(1983米)や「トップガン」(1986米)が思い出される。これらは映画もサントラも大ヒットを飛ばした。そのモロダーが手掛けているのだから、今作の音楽も聴き応えがある。例えば、マデリンとパソコンのセッション・シーンでは、クラシックと電子音のコラボが披露されている。これは今見ても斬新だった。
一方、ストーリーの方は機械に生命が宿る‥という、昔からよくあるドラマで意外性には乏しい。ただ、こうなるだろうという所にドラマが進行されていくので安心して見ることが出来た。ラストも上手く締めくくられていると思った。
しかし、冒頭で述べたように、設定自体にかなりの無理がある。そこは甘んじて受け止めなければならないだろう。また、演出的に詰めの甘い箇所があり、例えばエレベーターに挟まれてチェロが壊れるのはいくらなんでも強引過ぎる。他にも、幾つか演出に甘さが見つかった。
音楽と映像が総じて良く出来ているので万人にお勧めできる作品となっているが、厳しく見てしまうと色々と惜しい作品でもある。