主人公の姿に共鳴。
「孤高のメス」(2010日)
ジャンル社会派・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 地方の港町にひっそりと建つさざなみ市民病院に、ピッツバーグ大学で高度な外科医術を身に着けた当麻がやってくる。来て早々、彼は急患の緊急手術を難なくこなし周囲を驚かせた。患者のことを第一に考える当麻のひたむきな姿は、院長を初め看護師の浪子を変え、やる気のなかったさざなみ病院を改革していった。そんなある日、浪子の隣近所に住む少年が事故にあい脳死状態で運ばれてきた。そこに市長の大川も肝硬変で搬送されてくる。大川を救うためには脳死肝移植をするしか方法が無かった。しかし、それをするには日本ではまだ法整備がされていなかった。そこで当麻が下した決断とは‥。
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(レビュー) 医療の現場で働く看護師の目線を通して孤高の医師・当麻の姿を描いたヒューマンドラマ。同名ベストセラーの映画化である。
人命を尊重する当麻の考え方は実に崇高なものに思えた。彼は旧友の医師に向ってこんな事を言う。
命を助けたい患者と命をつなげたい患者が目の前にいる。その思いを受けなければ医師じゃない。
彼の医師としての信念がよく出たセリフだと思った。その後に下した彼の決断も実に天晴だった。
本作は医療問題に一石を投じたシリアスな社会派作品である。但し、決して難解な作品ではなく誰でも入り込みやすい作品になっている。当麻は少し変わった医師で、彼と周囲の人間の間で交わされるユーモラスなやり取りなど笑わせる個所があり、社会派作品だからと言って硬派にまとめるのではなく娯楽性をまぶした作りになっている。
例えば、当麻は手術室でオペをする時に必ず演歌を流す。よく手術中にBGMを流す医師はいるが、よりにもよって都はるみのド演歌である。これには当然回りの助手たちは困惑するのだが、その姿が可笑しい。また、彼らに反発を食らってしょぼくれる当麻の姿も可笑しい。他に、燕の巣を使った演出など、ユーモラスな味付けが要所で成されており、肩を張らずに見れるように色々と工夫されている。
話の構成も少し凝っているが、中々上手く作られていると思た。この映画は基本的には浪子の長男が、亡き母の日記を読み綴ることで展開されている。その日記には浪子の目線で見た当麻医師の姿が克明に記されており、それが本ドラマとなっている。現在と過去の接合に躓くような所もなく、ラストの感動もこの回想構成が上手く効いていると思った。
監督は
「八日目の蝉」(2011日)の成島出。残念ながら、演出面では「八日目の蝉」に比べると大仰になってしまっている。もしかしたら、元々の原作がコミックであることと関係しているのかもしれない。ちなみに、今回の映画は漫画版の原作者が別名義で書いた小説を元にしているそうである。したがって漫画版がそのまま原作というわけではない。しかし、自分はどちらも未読であるが、少々マンガチックな表現と感じる箇所が幾つかあった。このあたりはリアリティという点で見ると少々苦しい。
例えば、大川のキャラクター造形である。柄本明が演じているのだが、これが登場シーンからして過剰にイヤらしく味付けされている。ここまでアクの濃いキャラだと、後の彼の命を救うというドラマにも感情移入しずらくなってしまう。もう少し刺々しさを抑えて演じて欲しかった。
他に、当麻の敵役として登場してくる野本医師も大学病院の医師としては、かなりカリカチュアされている。しかも、いかにも悪役という役作りが自分には肌に合わなかった。
他に、ドシャ降りの雨の中で、患者の娘とオペの助手をした青年医師が語るシーン。何もわざわざそんなシチュエーションで‥と、わざとらしく思えてしまった。
果たして成島監督が元々のコミックをどこまで参考にしているのか分からないが、こうした過剰演出はシリアスな社会派作品の中にあっては浮ついているように見えてしまう。全体のトーンを考えてもう少し丁寧に演出して欲しかった。