実話を元にしていると聞いて驚いた。正に奇跡のような逸話なのだが‥。
「戦場のアリア」(2005仏独英ベルギールーマニア)
ジャンル戦争・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 1914年、フランス北部。ドイツ軍の攻撃にフランス軍はスコットランド軍の支援を受け必死の抵抗を続けていた。クリスマスイブの日。前線にいたドイツの人気テノール歌手、シュプリンクは皇太子の前で歌を披露することになる。そこで妻でソプラノ歌手のアナと再会する。「戦地に歌を‥」というアナの提案でシュプリンクは前線に戻り、美しい歌声を響かせた。これにスコットランド軍がバグパイプの伴奏で応える。いつしか戦場はコンサートさながらの盛り上がりを見せていく。
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(レビュー) 戦渦に芽吹いた奇跡の実話を映画化。製作サイドが訴えるメッセージは十分伝わってくるのだが、作品を通して伝える”術”がどうにも稚拙で萎えてしまう。
世の中には目を覆いたくなるような悲劇がたくさんある。愛する人が目の前で死んでいくのもその一つだ。彼らは戦場で毎日のようにそのような悲劇を目撃しているはずである。それが一時休戦状態に入り、敵味方関係なく互いに杯を交わし談笑する‥、そんなことが本当にありえるのだろうか?これはまさしく奇跡である。
確かに映画として描くには格好の題材だろう。しかし、それならばこの映画は、この奇跡に説得力を持たすような作りに徹するべきである。残念ながらそこの部分が手抜きに感じられた。人物達の葛藤が浅く、ともすれば奇麗事だけの美談に見えてしまう。例えば、これが喜劇ならばすんなりと入り込めたであろう。しかし、実話と銘打ってこれでは少し寂しすぎる気がする。むしろ、この奇跡とのコントラストで描かれるスコットランド軍の若き兵士、ジョナサンの方に同情をおぼえてしまった。
面白かったのは目覚し時計にまつわるエピソードだった。これは皮肉が利いている。戦場で敵味方を区別するのは人種でも思想でもない、軍服だ。このエピソードの顛末にはそのことがシニカルに描かれている。