偽札騒動をコミカルに描いたクライム・コメディ。
「危(やば)いことなら銭になる」(1962日)
ジャンルサスペンス・ジャンルコメディ・ジャンルアクション
(あらすじ) 紙幣を印刷するために使われるスカシ入りの和紙、10億円相当が盗まれた。偽札作りのシンジケートが動いていると察知した、チンピラのジョー、哲、健は、犯人グループよりも先に偽造のプロフェッショナル坂本を誘拐しようと画策する。ところが、計画を実行中に坂本を組織に連れ去られてしまった。その後、ジョーは犯人のアジトを突き止めて乗り込んだ。ところが、そこには電話番をしている、とも子という女が一人しかいなかった。ジョーは彼女を連れて組織が経営するクラブに潜入するのだが‥。
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(レビュー) 偽札騒動をユーモアとアクションで綴ったクライム・コメディ。
個性的なキャラ、破天荒な展開、人を食ったオチ。全てにおいて劇画タッチに構成されており、頭をからっぽにして楽しめる娯楽作品である。
監督は異才・中原康。若干風変わりな作品を撮ることがある作家であるが、今回は割と俗っぽいエンターテインメントになっている。いわゆるB級然とした快活な作風で、これはこれで肩の力を抜いて楽しく見ることができた。
尚、個人的に今作で一番好きな演出はトランプを使った合図の演出である。普通の犯罪映画ならここは花札を使うだろうが、敢えてトランプを持ってくるあたり‥。いかにも中平康である。洒落ている。
そして、今作はなんと言っても、会話のテンポが良い。その内容も実に洒落ていて、このあたりがいかにも中平康といった感じなのだが、軽妙なセリフがポンポンと飛び出す。以前に見た増村保造監督の
「巨人と玩具」(1958日)も、スピード感に溢れた会話で引っ張っていく社会派コメディだったが、それに匹敵するほどの軽快さが感じられた。特に、ジョー&とも子の掛け合いは、息も合っていて抜群だった。
後で分かったことだが、共同脚本の山崎忠昭は、かの岡本喜八監督の怪作
「殺人狂時代」(1967日)やTVアニメを多く手掛けたライターだそうである。その中にはルパン三世のTV第1シリーズ(いわゆる緑ジャケット版)も含まれている。そう考えると、キャラクター造形、世界観、セリフ回しの数々は、やはり劇画的に思えてくる。
例えば、今作のジョー、哲、健、とも子というチームは何となくルパン一家に通じる物がある。むろん、ルパン三世の原作は1967年からスタートしているので、両作品に関係性などあるわけがない。しかし、何となく共通する面白さが感じられた。
キャスト陣にも濃い面子が揃っている。ジョー役は宍戸錠、とも子役は浅丘ルリ子、哲役は長門裕之、健役は草薙幸二郎である。
夫々に個性的に演じているが、一番可笑しかったのはジョーを演じた宍戸錠だった。彼は通称”ガラスのジョー”と言われている。その由来は、彼の弱点がガラスをひっかく音だからである。黒板を爪でひっかく音と言えばわかりやすいだろうか‥。あの独特の音である。普段はニヒルに決めているのに、彼はその音を聞くと耳をふさいで、たちまち逃げてしまうのだ。そこにキャラクターへの愛着感が湧いてくる。
他の主要キャラにも夫々にコメディ・タッチが入っており、いずれもストーリー上で上手く笑いを生んでいる。こうした劇画チックなキャラクター造形も今作の一つの魅力である。