かなり痛々しいドラマだが見応えがある。
「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」(2008米)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 1950年代、閑静な住宅街、レボリューショナリー・ロードにフランクとエイプリル夫婦は住んでいた。彼らは二人の幼子と理想的な家庭を築いていた。しかし、それは表から見た姿に過ぎない。本当はフランクもエイプリルも夫々の心は満たされないでいた。そこで2人は心機一転、パリに移住することを決意するのだが‥。
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(レビュー) 中産階級の夫婦に起こる問題をシビアに捉えた人間ドラマ。
フランクとエイプリルは結婚して7,8年目くらいだろう。傍から見れば幸せな夫婦に見えるが、本当は夫々に今の人生に満足していない。フランクは父親が勤めていた会社に就職し、我慢して退屈な仕事をしている。エイプリルは女優志望の夢を諦めて家庭に収まった。二人とも過去を振り返り、こんはんずじゃなかった‥と後悔しているのである。
ある時、エイプリルはフランクにパリに移住することを提案する。ただ漠然と彼女は今の暮らしから離れたくてパリ移住を提案するのだ。当然、フランクも最初は戸惑う。しかし、彼女の言葉に諭されてパリ行きを決心する。
アメリカでは50年代から60年代にかけて郊外人口が爆発的に増えた歴史がある。交通網や産業化が進んだことによって労働者の多くは都市に住まなくても郊外に住みながら通勤できるようになった。今作のフランクも毎朝通勤電車に揺られながら都市部の会社に出勤している。こうした郊外に住む人々描いた映画は俗にサバービア・ムービーと呼ばれている。今作も正にサバービア・ムービーの定型と言っていいだろう。
郊外に住む人々は、地価が高い都市部に住むほど裕福ではないが、ある程度の知識と社会的地位を持った中産階級者がほとんである。そして、保守的な思考の持ち主も多い。本作に登場するフランク達の隣に住む夫婦、不動産を経営している中年夫婦などは典型的な例である。彼らは皆、夫は外で働き妻は家庭を守るという古い慣習を当然のように受け止めている。
一方、エイプリルはかつては女優を目指しただけあって、自立心が強い進歩的な女性である。彼女にはここでの旧態然とした暮らしが退屈に思えてならなかった。そして、一刻も早く抜け出したい‥という考えから、”花の都・パリ”行きを考えたのである。
このような社会的背景を考えてみると、エイプリルの気まぐれとしか言いようがないパリ移住計画にも、なるほどと思えてくるような一面が出てくる。つまり、これは主婦という枠に押し込まれた一人の女性の反動のドラマなのである。
そして、このエイプリルの反動は時代の証憑として捉えることも可能である。
女性解放運動は20世紀に入って大きなうねりとなって世界中を駆け巡ったが、アメリカでは50年代に入ってくると既婚女性の社会進出が積極的に促進されていくようになった。今作の時代背景も丁度50年代である。主婦であるエイプリルの反動は時代の流れとも合致する。今作の時代設定を敢えて50年代にしたことは実に興味深いことである。
監督はサム・メンデス。偶然にも彼の監督デビュー作にしてオスカー受賞作「アメリカン・ビューティー」(1999米)もサバービア・ムービーだった。アメリカの典型的な中産階級の裏側を暴いて見せたことで世間に大きな衝撃を与えたが、基本的に今回もその時と同じ家族崩壊ドラマとなっている。互いのエゴを激しくぶつけ合いながら対立していくフランクとエイプリルの姿は見ていて実に痛々しいが、同時に強く引き込まれる物もあった。それはメンデスの生々しい演出のおかげであろう。
例えば、冒頭の車中での口論、堕胎器具を巡る後半の喧嘩等、演者の表情に肉薄するドキュメンタル・タッチには目を逸らすことを許さないほどの力強さが感じられた。メンデスは元々、イギリスの舞台演出家だけあり、こうした息詰まるようなダイアローグは流石に手練れているといった感じがある。実に生々しく切り取られている。
その一方で、クライマックスでは少し斬新な映像演出も見られる。ネタバレを避けるために詳しくは書かないが、エイプリルの身にあることが起こり、これにも目が離せなかった。明暗のコントラストを効かせながら刺激的な赤色を配色して鮮烈なシーンを作り上げている。
尚、撮影監督のR・ディーキンスはサム・メンデスとのコンビが多く、先頃観た
「007 スカイフォール」(2012米)でも見事なカメラワークを見せいていた。彼の他の作品を見てみると、明暗のコントラスを巧みに操ることで、シーンのトーンを官能、冷淡と器用に使い分けている。今回もその変幻自在なトーンの操り方には感心させられた。
キャストでは、フランク役のL・ディカプリオ、エイプリル役のK・ウィンスレット、共に好演していると思った。
特に、K・ウィンスレットの懐の深い演技は見事である。クライマックス直前、朝食のシーンにおける彼女の微妙な表情が印象深い。注意して見ていれば、その表情から明らかに不穏な感情が感じ取れる。
脇役では、不動産屋の息子ジョンを演じたマイケル・シャノンが中々の好演を見せていた。彼は精神分裂症気味な青年役でドラマを大いに掻き回している。やや作りすぎな感じは受けたが、造形からして物凄いインパクトなので印象に残った。そう言えば、先日見た
「マン・オブ・スティール」(2013米)では悪役ゾッド将軍を演じていたが、これもかなり濃い味系のキャラ作りだった。ひょっとしたら今後、彼は個性派俳優として頭角を現してくるかもしれない。