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ブルーバレンタイン

夫婦の絆の崩壊を残酷に描いて見せた衝撃作。
ブルーバレンタイン [Blu-ray]ブルーバレンタイン [Blu-ray]
(2011/09/28)
ライアン・ゴズリング、ミシェル・ウィリアムズ 他

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「ブルーバレンタイン」(2010米)星5
ジャンルロマンス
(あらすじ)
 ディーンとシンディは結婚して一児を設け幸せな暮らしを送るはずだった。ところが、現実にはディーンは仕事を辞めて酒浸り。シンディは看護師の仕事をしながら幼子フランキーを一人で育てている。ある朝、フランキーが可愛がっていた飼い犬が自動車事故で死んでしまう。夫婦はフランキーに本当のことを言えず、互いに罵り合う。後日、ディーンはシンディの機嫌を取ろうと、久しぶりに夫婦水入らずのデートに誘うのだが‥。
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(レビュー)
 一組のカップルの出会いと別れを交互に綴った恋愛ドラマ。

 普通、物語は起承転結に沿って描かれるものであるが、この映画にはその構成が当てはまらない。ディーンとシンディの険悪な関係が続く現在のドラマ。そして、その合間に過去の馴れ初めのドラマが挟まる。つまり、二人が結婚した直後のドラマが描かれていないのだ。楽しかったであろう新婚生活や、フランキーの誕生、幸せの絶頂から現在のような生活に転げ落ちて行く経緯などは一切描かれていない。そのあたりのことは全て、観客の想像に委ねられている。本作は、起承転結で言えば”承”と”転”が無いのである。

 こういった作りの映画は大変珍しい。過去に「(500)日のサマー」(2009米)という映画があった。あれも一組のカップルの出会いと破局を交錯しながら描いていた。二人がどうして別れることになったのか?その理由が”必然”として見る側に突きつけてくる面白い映画だった。
 今作もこうした変則的な構成が大変よく似ている。ただ、決定的に違うのは、今作には何故別れなければならなかったのか?その過程が描かれていないので、破局の理由も「(500)日のサマー」ほど明確ではない。結果、見終わった後にもやもやとした感情が残る。

 しかし、だからと言って今作が失敗作だと言うわけではない。二人が別れる決定的な原因をぼかしたことで、かえってミステリアスな映画になった。現在の二人の葛藤のみに焦点を絞りながら破局の原因を観客にそれとなく想像させるように、実に周到に作られているのだ。

 それに現実問題として離婚は様々な問題がからみ合って起こるものである。浮気、仕事のストレス、育児、生活環境等、単純に原因が割り切れるものではない。一体、夫婦の間でどんなことが起こり、どうして心が離れてしまったのか?それを追求していく作業は、この作品を見る際の一つの醍醐味のように思う。

 自分はこの映画を観ていて、おそらく原因の発端はここにあったのではないかと感じた。実に身も蓋もない言い方になってしまうが、ディーンの甲斐性の無さ。これに尽きる。

 彼は朝から酒を飲んで仕事もせずダラダラとした生活を送っている。これではシンディも溜まったものではない。当然心だって離れてしまう。
 例えば、シンディがスーパーで元カレと再会するシーンがある。彼女は言葉にこそ出さなかったが、この時不倫の予感に浸ったに違いない。実際、この再会の直後、不機嫌だった彼女の表情は少しばかり緩んでいる。一方のディーンも流石にバカではない。何かあったに違いない‥と感付いてネチネチと嫉妬し始める。こうして二人はいつもの険悪なムードに陥ってしまう。

 このカップルは万事この調子で、それまで良好だった雰囲気が、些細なきっかけで急に喧嘩になってしまうのだ。しこたま酒を飲んでベッドインしたかと思えば急に背を向けてしまったりする。もはや酒の力ですら互いの気持ちを誤魔化すことが出来なくなってしまっているのだ。

 ここまで来たら、夫婦関係は修復不可能である。今作は二人の出会いと別れしか描かれていない。ディーンの甲斐性の無さがそもそもの発端だと思うが、ここまで関係がこじれてしまったのは、おそらくこうした些細な衝突の積み重ねが原因となっているのであろう。修復すべきポイントが一つに絞り切れない所は現実問題と一緒で、そこにドラマのリアリティが感じられる。

 出会いがあれば別れがある‥とよく言うが、今作ほどこの言葉が痛切に響いてい来る映画はない。なぜなら、ただひたすら一方的に終焉に向かっていく必然的な残酷さがこの作品の中にあるからだ。

 監督・共同脚本は今作が長編劇映画デビュー作となる新人デレク・シアンフランスである。それまでドキュメンタリーを中心に撮ってきた作家だそうだが、演出スタイルもやはりドキュメンタリータッチが貫かれている。ただ、美術や照明、陰影、色彩などは人工的で、ただ生々しいだけのドキュメンタリータッチでない所が面白い。例えば、ホテルの室内はブルーのトーンで統一されており、どこか幻想的で冷淡な印象を与える。そうかと思うと、シンディが妊娠を告白するシーンなどは、澄んだロケーションの中に幸せの在り様を暖色トーンで切り取っている。こうした各所の映像トーンに彼の美的センスが感じられた。

 キャストではディーンを演じたR・ゴズリングの好演が印象に残った。現在と過去の造形の差は、一人の俳優が演じたとは思えぬほどの役作りである。「ラースと、その彼女」(2007米)「ドライヴ」(2011米)の間に挟まる今作は、丁度役柄的にも二つの中間みたいな感じになっている。少し野卑で、少し情けない。この微妙な佇まいが大変魅力的だった。
 シンディ役のM・ウィリアムズも好演している。こうした幸薄い役どころは「ブローバック・マウンテン」(2005米)でもハマっていたが、やはり今回も悲劇色を前面に出した役作りとなっている。

 尚、本作はエンディングも良かった。劇中で流れた音楽が再びここで使用されるのだが、ドラマの肝とされる”あるシーン”が反芻され切なくさせられた。構成の妙としか言いようが無く、エンディングで一層切なくさせられた映画は初めてだった。 
[ 2014/02/13 16:27 ] ジャンルロマンス | TB(0) | CM(0)

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