実際の事件を豪華キャストで描いたクライム・コメディ。
「アメリカン・ハッスル」(2013米)
ジャンルサスペンス・ジャンルコメディ
(あらすじ) アーヴィンとシドニーは高利貸し業でのし上がってきた詐欺コンビである。アーヴィンには家族がいたが、2人は愛人関係にあった。ある日、FBIの捜査が入り2人は逮捕されてしまう。FBI捜査官リッチーは政治と金のスキャダルを暴いて出世を目論む野心家だった。そこでアーヴィンたちの天才的な詐欺の手口を利用して大物政治家を逮捕しようと企む。3人は架空の石油王をでっち上げて、アトランティックシティのカーマイン市長に近づき賄賂を渡そうとするのだが‥。
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(レビュー) 1979年に起こった政治スキャンダル事件を、豪華キャストで描いたクライム・コメディ。
自分は事件その物を全く知らなかったが、別に知っていなくても内容的には十分楽しめた。個性的なキャスト、最後まで予断を許さないストーリー、軽快な展開。エンタテインメントとして実に上手く作られている。
物語はアーヴィンとシドニーの出会いから始まる。彼らは夫々に貧しい出自で、貧困から脱するためにコンビを組んで詐欺稼業を始める。そこにFBI捜査官リッチーが絡んできて物語は展開される。二人は彼の計画に付き合わされることになるのだ。
その計画とは、市民から絶大な人気を誇るカーマイン市長に近づいて賄賂を渡す‥というものである。その現場を抑えればリッチーの手柄になる。つまりアーヴィンたちは彼の出世の手伝いをさせられることになるのだ。しかし、ことは思うように運ばない。善良なカーマインはそれを受け取らなかった。これによってアーヴィンたちは、あれよあれよという間にとんでもない事態に巻き込まれてしまう‥。
大変不謹慎な言い方かもしれないが、この映画を見ると政治家もFBIも詐欺師も全員、同じ穴の貉のように思えてしまう。彼らは皆、口では上手いことを言っても、結局自分のことしか考えていない。やはりこの世は弱者と善人だけが損をするの世の中なのか‥。そんな浮世の習いが思い知らされる。
逆に言うと、私利私欲しか考えない悪人たちの駆け引きは、それだけで面白いとも言える。何故なら、騙し騙される所に人間の本質が見えてくるからだ。この映画はそんな人間の欲望をコメディのオブラートに包みこみながら皮肉的に見せている。
このように、どいつもこいつも自分のことしか考えていないワルばかりだが、唯一、善人の部類に入れてもいいと思うキャラがいた。それはアトランティックシティのカーマイン市長である。確かに彼はマフィアとの繋がりがあった。しかし、やり方に問題はあったかもしれないが、カジノを建設して市の発展を純粋に願っていた政治家だったように思う。純粋すぎるがゆえにアーヴィンたちに騙された‥とも言える。彼に関しては、映画を見終わって少し同情してしまった。
それに、物語の舞台となるアトランティックシティという街を考えると、カーマインがマフィアの”お伺い”になってしまったのにも仕方がない面があるように思う。以前、L・マル監督の「アトランティック・シティ」(1980仏カナダ)という映画を見たことがある。これはタイトルが示す通りアトランティックシティを舞台にした犯罪映画である。そこに登場するのは、やはり金と権力に取りつかれたワルばかりだった。街の実態は完全にマフィアによって支配されていたのである。したがって、今作のカーマインが裏でマフィアと蜜月な関係にあったのは、市政を行う上では必然だったのだと思う。
尚、今作に原作は無い。おそらく実際の事件をリサーチした上で映画的な脚色を色々としたのだろう。全体的にはコメディなので割と明るく作られている。ただ、事実は酷くシリアスだったのではないだろうか。ラストも綺麗にまとめているが、実際にはこれほど丸く収まるとは思えない。娯楽映画としては実によく出来ているが、実際の事件はどうだったのか?少し興味が湧いた。
監督・共同脚本はデヴィッド・O・ラッセル。ラッセルの演出は前作
「世界にひとつのプレイブック」(2012米)よりも更にアップテンポになっている。前々作
「ザ・ファイター」(2010米)あたりから作品スタイルは変わったように思うが、得意のオフビートな”間”は今回はほぼ封印されている。当時のヒットナンバーをBGMに、ほぼ全編に渡り流麗な場面展開が続き、この軽快さに新境地を感じた。
シナリオも中々よく出来てると思った。若干もたつく個所もあったが、演出が比較的軽快にまとめられているので余り苦にならない。
特に、クライマックスの怒涛の展開は白眉の出来栄えである。見ている最中、色々と疑問に思う箇所があったのだが、こういうオチならその疑問も綺麗に払拭された。
キャスト陣も豪華である。アーヴィンを演じたC・ベールは体重を増やしての出演である。映画のオープニングでいきなり彼のデップリとしたお腹がアップに写って驚いた。彼は「マシニスト」(2004スペイン米)と「ザ・ファイター」でガリガリに痩せたが、今回は逆に丸々と太った。もはや肉体改造ならお手の物といった感じであるが、現在は次回作に向けて再び体を引き締めているらしい。体には決して良くないのでそろそろ心配になってしまうのだが‥。
シドニー役を演じたA・アダムスも、胸が大きく開いたドレスを着て大胆な演技を披露している。これまでは大人し目の役が多かったが、今作で一皮剥けたという感じがした。
そして、アーヴィンの妻ロザリンを演じたJ・ローレンス、彼女の強烈な演技はかなり印象に残った。市長に招かれたディナー、愛人シドニーとの対決、マフィアの幹部を手なずけるバーのシーン。正にやりたい放題、暴走機関車、恐れを知らぬ女性とはこの事である。
この映画は詐欺の駆け引きの一方で恋の駆け引きも描かれている。その中心となるのが彼女である。出番は他の主要キャストに比べると少ないが、一つ一つのシーンで彼女の存在感は圧倒的だった。
他に、カメオ出演としてR・デ・ニーロが登場してくる。わずか1シーンながら中々の存在感を見せつけている。