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それでも夜は明ける

歴史の暗部を描いた実話の映画であるが一定の普遍性を持った作品である。
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「それでも夜は明ける」(2013米)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 1841年、黒人バイオリニストのソロモンは家族と幸せな暮らしを送っていた。ところが、演奏会に招かれた彼は興行主に騙されて奴隷として売り飛ばされてしまう。自由黒人であることを主張するが認めてもらえず、彼は遥か遠くのニューオリンズ行きの船に乗せられる。そこで奴隷市場にかけられ、白人農場主フォードに買われるのだが‥。

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(レビュー)
 残酷な運命によって12年もの間、奴隷として生きる羽目になってしまった黒人男性の半生をシリアスに描いたヒューマン・ドラマ。尚、今作は主人公ソロモン・ノーサップの自伝を映画化した作品である。

 かつてアメリカのTVムービーで「ROOTS/ルーツ」(1977米)という作品があった。黒人奴隷の少年が様々な苦難に立ち向かいながら成長していく大河ドラマで、放映当時アメリカではかなりヒットした。今作もそれと同じ黒人奴隷の現実に焦点を当てたドラマとなっている。実際に南北戦争以前のアメリカでは多くの黒人が裕福な白人によってまるで家畜のように扱われていた。肌が黒いというだけで差別され、人間としての尊厳を踏みにじられていたのである。これは実に非人道的な暴虐であると思う。

 監督は黒人監督スティーブ・マックィーン。スティーブ・マックィーンと言うとどうしても往年のアクションスターの方を思い出してしまうが、今はマックィーンと言えば彼である。本作は今年のアカデミー賞で見事に作品賞を受賞した。

 マックィーンは、同じ黒人としてソロモンが辿った悲惨な運命を映画化せずにいられなかった‥と語っている。このテーマを黒人監督が撮ったことは大きな意義があると思う。これまでアカデミー賞では黒人はどちらかと言うと冷遇されてきた歴史がある。そこから考えてみると、本作の作品賞受賞というのはアカデミー会員達による贖罪の表れだったのではないだろうか‥。そんな風に思った。
 また、このドラマはアメリカ社会の過去の暗部を描いたという点で、いかにもアメリカ的な内容だと言える。

 ただ、一方で自分は、このドラマは決してアメリカに特有の問題ではなく、一定の普遍性を持った作品のようにも思った。
 今回のドラマは、ソロモンが元々は自由黒人だったという所にポイントがあるように思う。そこに誰が見ても共感しやすい主人公設定がある。

 彼は最初は当然、自分は自由黒人だと主張する。しかし、凄まじい暴力によって屈服させられ、奴隷になることを受け入れさせられる。そして、愛する家族に再会する日を信じて、ひたすら理不尽な仕打ちに耐え続けるのだ。これは戦おうとしても戦えなかった男のドラマである。したがってソロモンに感情移入しながら見ると非常に疲れる映画でもある。

 そして、翻って見れば、自由だった人間が奴隷になってしまう悲劇。これは何も彼個人のドラマではなく、現代に生きる我々が見ても身につまされる部分があるのではないかと思う。

 昨今、家畜をもじった言葉で「社畜」などと言う言葉が流行っているが、これも言わば会社の奴隷になって働く現代人の悲劇だろう。黒人奴隷の状況に比べれば程遠い過酷さかもしれないが、過労死の問題などをニュースで聞くと当たらずも遠からず‥なんてことを思ってしまう。

 確かに今作は黒人奴隷の歴史を照射した社会派的な作品である。しかし、同時に時代を超えて、社会を超えて、蹂躙されることの苦しみを問うた極めて普遍的な作品でもあるように思った。

 マックィーンの作品は今回が初見であるが、演出は概ね端正に整えられていると思った。特徴的なのは、所々に登場するロングテイクだろうか。これは見る者を画面に引き込む高い求心力を持っている。

 例えば、今作で最も印象に残ったのは、木に吊るされたソロモンを延々と捉えたショットである。ソロモンのバックでは黒人奴隷たちが何事もなかったかのように日常生活を送っている。目の前に苦しむ人がいても助けようとしない‥というより助けられない現実。一人孤独に苦しむソロモンの姿は実に痛々しかった。
 また、パッツィーが鞭打たれるシーンもカットを切らずに延々と捉えている。ここは映像的な意味でもドラマ的な意味でも実に残酷だった。
 終盤のソロモンのアップを捉えたロングテイクも何とも意味深である。セリフは一切なくソロモンの表情だけを延々と映している。観客に想像させるためのロングテイクだろう。
 こうしたロングテイクは、観客に緊張感を維持させたり、劇中で起こっていることの意味を想像させるという意味では実に効果的である。

 一方、脚本については若干、散漫な印象を持った。
 例えば、途中で登場する白人奴隷のエピソードは放りっぱなしである。また、先述したパッツィーが鞭打たれるシーンは経過が曖昧なまま展開されるのでちょっと不自然に写った。エップスは何故あれほど憤慨したのだろうか?夫人と一緒にいた所を見ると、おそらく彼女に何か吹き込まれたのだろうが、憤慨した理由がはっきりと描かれていない。シーンの接合に不十分な部分があるからである。

 尚、脚本のJ・リドリーはバカ映画「アンダー・カバー・ブラザー」(2002米)や鬼才デビッド・O・ラッセル監督の戦争コメディ「スリー・キングス」(1999米)の原案・脚本も手がけている。これまでは割とコメディ寄りな作品を書いていたので、今回のシリアスなドラマは意外だった。

 キャストではソロモンを演じたキウェテル・イジョフォーの熱演が印象に残った。個人的には「キンキー・ブーツ」(2005米英)のドラッグクィーン役が強く印象に残っている俳優である。今回はその時に見せた軽妙な演技ではなく、徹頭徹尾シリアスな演技を貫いている。これも意外であった。
 また、見事にオスカーを受賞したパッツィー役のルピタ・ニョンゴであるが、こちらも迫真の熱演を見せている。映画デビュー作にしてオスカー受賞という快挙は今後の女優人生の大きな礎となろうが、それを活かすも殺すも彼女自身である。頑張ってほしいと思う。
[ 2014/03/18 01:28 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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