引き続き中島貞夫&渡瀬恒彦コンビによる任侠映画。
「鉄砲玉の美学」(1973日)
ジャンルアクション・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) ストリップ嬢のアパートで自堕落な暮らしを送るチンピラ清は、大阪の暴力団・天佑会から鉄砲玉の仕事を受ける。拳銃と100万円を渡されて清は標的がいる宮崎へ飛んだ。そこで早速、地元の暴力団・南九会のバーで一騒動を起こす。目を付けられた清は仕事が出来ず、酒と女にのめり込んでいく。
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(レビュー) 東映のヤクザ映画が興隆を極めていた頃と同時期に作られた作品である。しかし、製作がATGなせいか、いわゆる当時の流行である実録物とは一線を画すユニークな作品となっている。何となくアメリカン・ニューシネマっぽいテイストが感じられるのが面白かった。
監督・主演は活きの良いアクション映画の傑作
「狂った野獣」(1976日)のコンビ、中島貞夫と渡瀬恒彦である。
シナリオが中盤でダレルのが残念だったが、清の生き様は上手く表現されていると思った。特に、クライマックスからラストにかけてのスピーディーな展開に引き込まれた。
そして、何と言っても主演を張った渡瀬恒彦の熱演。「狂った野獣」同様、これが実に強烈な印象を残す。
彼が演じる清は、女のヒモをしながら自堕落な生活を送るチンピラである。賭けマージャンに負けると女から金を奪い、食い物が無くなれば八百屋の残飯を漁り、どこからどう見ても社会の底辺を這いつくばって生きるダメ男である。
しかし、そんな彼にも唯一の心の安らぎはあって、それは部屋に飼っているウサギたちの飼育である。彼はそれによってどうにか人間らしい心を保っている。周囲に突っ張って反抗していても根は寂しい男なのである。
映画はそんな清の転落振りを鮮烈に描いている。
彼は暴力団から鉄砲玉の仕事を引き受け、単身、敵の本拠地へと乗り込んでいく。所詮、鉄砲玉は使い勝手の良い捨て駒に過ぎない。清自身もそのあたりのことは知っていて、仕事の前金を受け取るとそれで更に破滅的な生き方を始めていく。そして訪れる結末。これは実に憐れであった。
自分が本作を見て最もアメリカン・ニューシネマ的な臭いを感じたのはこのラストである。現実なのか清の妄想なのか、はっきりとしない不思議なラストであるが、このシチュエーションはアメリカン・ニューシネマの傑作「真夜中のカーボーイ」(1969米)を想起させる。主人公が置かれている状況をここまで似せているのだから、おそらく作り手たちは狙ってやっているのだろう。
いずれにせよ、この惨めな結末は、現実とも妄想ともつかない不思議さも相まって強く印象に残った。
演出は所々で粗っぽい所もあるが堅実にまとめられていると思った。清を取り巻く幹部達を一切登場させず声だけの出演に留めたのは、クールな演出で良かったと思う。
もう一つ、今作は音楽にも注目したい。音楽は伝説のパンクバンド頭脳警察と荒木一郎が担当している。オープニングを飾る「ふざけるんじゃねえよ」という頭脳警察のナンバーは色々な意味で強烈である。まるで清の暴力性を表現したかのような歌詞。ボーカルのパンタの吐き捨てるような歌い方。これらが荒々しい躍動感をもたらしている。