fc2ブログ










顔役

名優・勝新太郎が監督・主演を務めたハードボイルド映画。
「顔役」(1971日)星3
ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 大淀組と入江組が某信用金庫の不正融資事件をきっかけに抗争に突入した。警視庁の捜査1課に所属する立花刑事はヤクザにも顔が効く悪徳刑事である。捜査のやり方に問題はあったが、切れ味鋭い仕事ぶりは周囲も一目置く存在だった。そこで今回の事件の捜査が彼に任される。立花は早速、大淀組の若頭・杉浦を捕えようと彼の事務所を訪ねた。しかし、杉浦は子分を事件の犯人として差し出すことで手打ちにしようとした。その後、信用金庫の支店長が乗った車が爆破される。これによって立花の捜査は次第に熱を帯びていくようになる。

ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!

FC2ブログランキング
にほんブログ村 映画ブログへ人気ブログランキングへ

(レビュー)
 ヤクザな刑事の熱血捜査をハードに描いたポリス・サスペンス作品。

 勝新太郎が製作、監督、脚本、主演を兼ねた作品で、彼のファンにとっては正に垂涎の映画だと思う。無頼漢・勝新の人となりがよく出た、良い意味でのワンマン映画になっている。尚、今作は彼が初めて監督した作品である。

 ただ、初監督作ということもあろう。正直な所、クオリティ自体は決して高いとは言えない。技術的に稚拙な部分が多く、観客に対しても見やすく作ろうという姿勢が余り感じられない。相当の気合が画面から伝わってくるが、決して万人受けする作品ではない。

 まず、本作を見て一番驚いたのはカメラワークである。異様なほどクローズアップが多い。俳優の表情、体の一部、カットによっては何を写しているのか分からない程の近距離ショットが登場し、観る側を混乱させたり、緊迫感、切迫感を突き付けてくる。まるで画面に顔を押し付けて見せられているような、そんな息苦しさ、圧迫感に襲われた。これは他の映画では中々味わうことが出来ない感覚である。

 また、カメラは常に手持ちで不安定に揺れている。
 例えば、大淀組組長襲撃のシーンは印象的である。カメラがあらぬ方向を写しているものだから、音のみで何が起こっているのか把握しなければならない。そもそも銃がどこから発砲されるのか分からないし、誰がどこで格闘しているのかも分からない。カメラは襲撃の瞬間を完全にフレームに収めきれておらず、まるで素人が撮ったような映像である。しかし、逆にこの拙さにはリアリティも感じられ、まるでその現場に自分も立ち会っているような、そんな生々しさが感じられた。

 一方、シナリオもかなり野心的だ。一応、立花の目線で物語は展開されているが、暴力団組織の内情については詳しく描かれておらず、事件の全容を把握するのは難しい。一体誰が誰を殺し、誰が暗躍し、警察と政治家がどう繋がっているのか?そういった背景がよく分からない。言ってしまえば、大変不親切な作りになっている。
 しかし考えてみれば、立花の主観で綴られるドラマなのだから、事件の全容が容易に把握できないのは当たり前と言えば当たり前である。全ての背景を知りえたらそれはもう神様である。あくまで立花の視座に固定したシナリオはリアリティを考えてのことなのだろう。

 キャスト陣は芸達者が揃っているので安定感がある。勝新の成りは少し一本調子な所もあるが、こうしたヤクザな役所はよくハマっている。彼を含め今作のキャラは全体的にストレートに造形されている。
 そんな中、銀行の支店長を演じた藤岡琢也、新米刑事を演じた前田吟。この二人だけは少し複雑な造形にになっていて中々味わいがあって良かった。

 尚、今作の後に勝新太郎は自身のプロダクションで「警視-K」(1980日)というテレビシリーズを製作した。これも彼が監督・脚本・主演を務めた野心作で、本作と同じように彼自身が警視庁の敏腕刑事を演じている。相当癖を持った話が多く、そのせいか視聴率が低迷し残念ながら13話で打ち切りになってしまった。この「顔役」が「警視-K」の原型になっていることは間違いないだろう。
[ 2014/03/29 01:00 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://arino2.blog31.fc2.com/tb.php/1250-446fae07