新座頭市 破れ! 唐人剣

香港スター、J・ウォングを迎えて製作された異色作。

新座頭市 破れ! 唐人剣 [DVD] (2003/10/24) 勝新太郎、王羽 他 商品詳細を見る

「新座頭市 破れ！唐人剣」（1971日）
ジャンルアクション
（あらすじ）
　市は旅の途中で瀕死の唐人を見つける。彼から幼子・小栄を預かった市は、剣術の達人・王剛に出会い全ての事情を知る。小栄の父親は大名行列の侍たちによって無残に刺殺された。そして王剛によって小栄だけが救われたのである。市は賞金を懸けられた王剛を不憫に思い、小栄共々匿うことにするのだが‥。

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（レビュー）
　香港映画界のスター、J・ウォングを迎えて製作された座頭市シリーズの第22作目。

　J・ウォングと言えば「片腕ドラゴン」（1972香港）が有名であるが、今作はその前年に作られた作品である。おそらく彼の名前は香港では一定の知名度はあっただろうが、日本ではまだ無名に近かったと思う。その彼を起用したのだから勝新の先見の明は侮れない。おそらく日本人が初めてJ・ウォングの名前を知ったのは、この「新座頭市 破れ！唐人剣」が初めてではないだろうか。尚、ウォングは今回も片腕の剣士という役どころを演じている。

　物語は中々面白く作られていると思った。前半は市と王剛のコミュニケーションのズレ、カルチャー・ギャップが所々でユーモアを生んでいる。二人の通訳を小栄がするという構図も面白い。底辺にハードなドラマを敷きながら、前半は概ね微笑ましく見れた。

　中盤からは一転して、そのコミュニケーションのズレが悲劇のドラマへと繋がっていく。誤解が誤解を招き、市と王剛は命を賭けた戦いに身を投じていくようになる。クライマックスは当然、二人の対決になる。
　ただ、この対決はアクション自体の見栄えは良いのだが、いかんせん2人があいまみえるまでの展開に難がある。王剛の裏切られたという気持ちが薄みで、結果、市との戦いにも余り説得力が感じられなかった。王剛の葛藤が深まればこのクライマックスは更に味わいを増したであろう。

　とはいえ、J・ウォングの身体能力を活かしたアクションは申し分ない。飛んだり跳ねたりのクンフー・アクション張りの大立ち回りに彼の持ち味がよく出ていると思った。若干殺陣が頼りなく感じたが、それは相手が勝新だからであって、普通に上手くこなしている。ましてや片腕でやってのけたのだから、これは讃えるべきであろう。

　他に、盲目の賭博師として三波伸介が登場してくる。同じハンディキャプを持つ者同士、市と意気投合していくのだが、終盤にかけて良い働きぶりを見せていた。

　尚、クライマックスの対決だが、香港版と日本版では結末が異なるらしい。日本版では勝新が勝利するが、香港版ではウォングが勝利するということだ。ドラマ的にはどう考えても勝新が主役なのだから、ウォングが勝ってしまっては締まらないと思うのだが‥。まぁ、色々と大人の事情があったのだろう。