いわゆるヤクザの世界を描いたドラマであるが丁寧な作りが良い。
「ザ・タウン」(2010米)
ジャンルサスペンス・ジャンルロマンス
(あらすじ) 強盗多発地帯のボストン、チャールズタウン。この町で生まれ育ったダグは、父親と同じ道を歩み仲間と組んで強盗団を作った。ある日、銀行を襲撃した時にクレアという女性事務員を人質に取る。逃走の末に一旦は解放したが、もし彼女が自分たちの正体を知ってしまったら‥。そんな心配を抱いたダグは、素性を隠して彼女に近づき情報を聞きだそうとする。やがて二人は次第に惹かれあっていくようになり‥。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 暴力がはびこる荒んだ町で、強盗犯と人質が奇妙な愛情で結ばれていくロマンス・サスペンス作品。
監督・脚本・主演はこれが監督2作目となるベン・アフレック。
鑑賞順が逆になってしまったが、自分は彼の監督第3作
「アルゴ」(2012米)の方を先に見ている。「アルゴ」はアカデミー賞で見事に作品賞を受賞したが、監督のB・アフレックは監督賞にノミネートすらされなかった。自分はこれが実に不思議でしょうがなかった。「アルゴ」を見る限り、彼の演出力の高さは評価して然るべきであろう。まだ監督としての実績が足りないからなのか‥?監督としてよりも俳優としてのイメージが強すぎるからなのか‥?色々と推測できるが、選から漏れたことが理解できない。そして、今作を見ても彼の手腕は確かである‥と感じ入った。
特に、中盤のカーアクション、クライマックスのカットバック演出は見事である。ダグが過去の自分を幻視する演出もすこぶるドラマチックで良い。また、アイテムの使い方もよく弁えている。例えば、ジェムの首の刺青などは、ある場面におけるサスペンス的な面白味を上手く引き出していた。
また、今作は編集も見事だと思った。編集を担当したD・ティチェナーは
「ゼロ・ダーク・サーティ」(2012米)や
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(2007米)でもいい仕事ぶりを見せていた。彼の持ち味は自然でドラマチックな効果を狙った編集のように思う。
例えば、今回で言えば、序盤の銀行襲撃を起点にしたアバンタイトルのシークエンス。この流れるようなテンポの編集は実に素晴らしい。一気に映画の中に引き込まれた。また、迫力のカーアクション・シーンも中々のスピード感である。
一方、シナリオはというと、ストーリーの視座が狭いせいで、物語背景に若干、現実味が乏しいという感じがした。ただ、基本となるダグの葛藤は、周辺のドラマを織り交ぜながらドラマチックに展開されており、全体としては悪くない。
何よりダグとクレアとの恋愛談がよく出来ている。いわゆるヤクザ者が愛した女のために更生する‥というドラマ、それ自体は決して新鮮というわけではない。ただ、ダグとクレアの関係が丁寧に積み重ねられているおかげで、これが想像以上に面白く見れる。クライマックスのクレアの選択にも説得力が感じられた。
更に、この映画にはもう一人のキーパーソンが登場してくる。それは、幼い頃からダグと一緒にこの町で育った弟分のジェムである。いわゆるダグにとっての腐れ縁である。彼は、クレアと一緒に更生の道を歩もうとするダグをこの町に引き止めようとする。これも過去の”ある事件”が深く関係することで一定の説得力が感じられた。
尚、ダグを含めた強盗団のメンバーは皆、父親から強盗を教え込まれた青年達である。このチャールズタウンの裏社会はまるでマフィアのような世襲制がはびこっており、延々と悪の血が引き継がれているのだ。そして、ダグたちをこの町に繋ぎとめているのが、強盗団の元締めのファーギーや、刑務所に入っているダグの父親である。つまりは絶対的な父性である。
こうした背景を踏まえると、ダグが更生するというこのドラマは、実は”家”からの解放、つまり成長ドラマであるという見方も出来る。表向きはサスペンス・ロマンス映画であるが、その内側には極めて普遍的なテーマが隠されているように思った。
キャストではジェム役を演じたJ・レナーが印象に残った。彼は切れると何をしでかすか分からない直情型な男で、主役のダグを演じたB・アフレックを食う勢いの熱演を見せている。彼の生い立ちについては詳しく描かれていないが、色々と想像してみたくなるほどの荒んだ演技だった。
また、ファーギー役を演じたP・ポスルスウェイトの黒幕振りも中々板についていた。表向きは花屋を切り盛りするごく普通の小市民という設定がユニークである。尚、今作が彼の遺作となった。