ヒッチコックのイギリス時代の作品。
「第3逃亡者」(1937英)
ジャンルサスペンス・ジャンルロマンス・ジャンル古典
(あらすじ) ある海岸で女性の変死体が上がる。傍にはコートのベルトがあった。そのベルトは死体の第一発見者であるロバートのものだった。これによって彼は殺人罪の濡れ衣を着せられる。その後、裁判にかけられたロバートは、法廷の傍聴人に紛れて逃走した。その先で警察署長の娘エリカと出会い、彼女を人質にとって郊外へと逃げ延びた。エリカは最初はロバートを警戒した。しかし、一緒に行動するうちに次第に情が湧いてくる。二人は真犯人を探すために協力していくのだが‥。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) A・ヒッチコックが監督したロマンス・サスペンス作品。本作は、彼がまだイギリスにいた頃に撮られた作品である。
イギリス時代の作品は渡米後の作品に比べると華やかさはないが、後のエッセンスが見られるという意味では興味深く見れる。今作は、いわゆる冤罪人が真犯人を探し出すという作品で、ヒッチコックが得意とするタイプの映画になっている。後に彼は、同じような設定でアメリカで「間違えられた男」(1956米)という映画を撮っている。今回はそのエッセンスが各所に見られた。
ただ、今作はロマンス色、コメディ色が強く、事件を探るロバートたちのサスペンスはそれほ緊迫しているわけではない。物語も割と単調で、どんでん返しも特に用意されているわけではない。また、ロバートが裁判所から脱走するのもかなり強引な展開で、サスペンス自体は取り立てて凄いと言うほどではなく、まずまずといった感じである。
一方、ロマンスはと言うと、エリカがロバートに接近するきっかけが若干弱い気がしたが、二人が行動を共にするうちに次第に惹かれあっていく過程は丁寧に描かれているし、最後も上手くまとめられていると思った。
コメディ場面で言えば、エリカの叔母の屋敷を訪れるシーンが最も面白く見れた。何と言っても、叔母のキャラクターが良い。一緒に連れてきたロバートのことをあれこれ詮索するあたりは、相当に意地が悪いが、ヒッチコックはこういう人間のイヤらしい一面を描くのが本当に上手い。本当にこういう人っていそう‥と思わせてくれる。
演出面でも後のテクニックが色々と見られた。
「鳥」(1963米)の一場面で、 ガソリンスタンドが爆発炎上するシーンがある。火が給油所に引火する過程をヒロインの目線のアップで鮮やかなカット割りをしていた。その原型が今作で見れる。
また、「知りすぎていた男」(1956米)におけるアルバート・ホールの演奏シーンの元ネタもクライマックスには登場してくる。この時の犯人に寄っていくカメラワークは実に見事だった。
このように、後のヒッチコック・タッチの原型が観れるという意味では見所の多い作品である。