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約束

まるで演歌の世界ような切ないメロドラマ。
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(2013/10/30)
岸恵子、萩原健一 他

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「約束」(1972日)star4.gif
ジャンルロマンス
(あらすじ)
 自分の素性を隠し続ける女・蛍子。飄々とした喋りで彼女に語りかける男・朗。二人は日本海を北上する電車で出会った。やがて電車は小さな町に辿り着き、蛍子は隣に座っていた中年女性と降りて行く。朗も彼女たちの後を追いかけて行った。その先で彼は蛍子が抱える秘密を目撃していく。

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(レビュー)
 男女の悲恋を抒情的に綴った作品。

 まるで演歌の世界のようなウェット感タップリなドラマであるが、簡潔で無駄のない語り口、哀愁を漂わせた映像美は大いに見応えがある。

 物語は電車の車内から始まる。合席になった男女3人がこのドラマの主役たちである。一人は過去の罪を背負って生きる蛍子という女。彼女の隣に座るのはどこか気品の漂う初老の中年女性。そして向かい側に座るのはお調子者のフウテン青年・朗。3人のやり取りの中でいったい彼らが何者なのかが徐々に判明していく。この序盤のシークエスからして惹きつけられた。新聞記事や途中で乗車する刑事と囚人といった、小道具、サブキャラを駆使した演出も、3人の素性をそれとなく分からせるヒントになっていてミステリ映画のような面白さも感じられる。

 その後、3人は電車を降りてある港町に辿り着く。ここからドラマは本格的に始動していく。
 蛍子は過去にある罪を犯しており、その罪に苦しんでいた。そして、朗はそんな彼女の全てを受け入れて、蛍子を愛するようになる。そして、彼らは”ある約束”をして一旦別れる。ところが、実は朗も他人には言えぬ複雑な事情を抱えており、その約束を果たせるかどうか分からなくなっていく。そこが本ドラマの最大のクライマックスである。

 メロドラマとしての高揚感、抒情性に溢れた作りが見事である。やや雰囲気重視でリアリティ云々を言ってしまうと少々苦しいものがあるが、セリフで語るのではなく映像で語るのも映画表現の大きな醍醐味である。本作はそれが徹底された作品のように思う。

 蛍子と朗が電車を降りてキスするシーンも切迫感に溢れていて良かった。二度と会えぬと承知で最後の賭けに出た朗の心情を察すれば、このシーンは実に切なく見れる。と同時に、理性と欲望の狭間で揺れ動く蛍子の心中にも計り知れない葛藤が渦巻いていただろう。これまた切なくさせる。バックに流れる踏切の音が、二人の別れを急かすように鳴り響き秀逸である。

 蛍子を演じるのは岸恵子。朗を演じるのは萩原健一。人生に焦燥しきった大人の女性を体現した岸の好演もさることながら、宛てのない人生を転がり落ちて行くショーケンの痛ましい演技も印象に残った。終盤の洋服店での演技などは、朗の幼稚性が見え隠れし、何とも居たたまれなくなった。思うに、彼は蛍子に母性を求めていたのかもしれない。現に、「あんたの母性をくすぐってやったのさ」と冗談交じりに蛍子に言う場面がある。大らかな愛で包み込んでほしいという朗の無意識の本音と取れなくなくもない。

 もう一人の主役、蛍子の見張りをする中年女性であるが、キャラ立ちという点では主役二人に負けず劣らすの存在感を出している。彼女にもある過去があり、それは中盤で蛍子に託される手紙から読み解ける。言わば、彼女は愛に見放された孤独の身であり、今にして”女”である自分にケリをつけようと、この旅を始めたもう一人の悲劇のヒロインだったのかもしれない。その手紙には何としたためられていたのだろうか?実際に映像として見せてないので、あれこれ想像してみたくなる。

 監督の斎藤耕一の演出は抒情性を引き出すことに一貫している。特に、序盤の”支払い”に関する伏線を回収したクライマックス・シーンの上手さが光っていた。この時、ラーメンの代金を支払わなかったのは、蛍子の朗に対する求愛に他ならない。口に出さずに行動で示す奥ゆかしさ。正に”演歌”の世界である。
[ 2014/06/08 15:05 ] ジャンルロマンス | TB(0) | CM(0)

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