まさかのミュージカル!
「愛と誠」(2012日)
ジャンルロマンス・ジャンルアクション・ジャンル音楽
(あらすじ) 1972年、東京の裏街道で喧嘩に明け暮れていた不良少年・誠は、ひょんなことから早乙女財閥の令嬢・愛と知り合い、彼女が通う名門・青葉台学園に転入させられる。実は、二人は幼い頃に運命的な出会いを果たしていた。誠は愛の命の恩人だったのである。愛はそんな誠を何とか更生させようとする。しかし、当の誠は愛の想いをよそに喧嘩騒動を起こして退学になってしまう。その後、彼は不良の溜まり場として有名な花園実業に転校する。誠を追いかけるようにして愛も転入するのだが‥。
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(レビュー) 梶原一騎・ながやす巧による同名コミックを鬼才・三池崇史が監督した作品。不良少年と財閥のお嬢様の恋を歌とダンス、激しいバイオレンス描写で綴った痛快エンターテインメント・ムービーである。
漫画ファンの間ではよく知られている有名な原作であるが、実はこの作品は1974年に西城秀樹・早乙女愛主演で映画化されている。自分は未見であるが、映画はヒットし、その後2本の続編が製作された。当時は時代設定的にそれほど変わらないので、割と自然な形で映像化されたのではないだろうか。
しかし、今となってはやはりどこか古臭く感じるドラマである。それをどうやって今の観客に楽しんでもらえるように映画化できるか。おそらく三池監督も相当苦心したのではないだろうか。そして、出来上がった物は何とミュージカルである!
なるほど、いかに古い原作でも、こうしてミュージカルという、一種異空間で行われる物語として作れば、確かにフィクションとして素直に楽しめるかもしれない。原作ファンからすれば賛否は出てくるかもしれないが、個人的にはこういうやり方も”あり”と感じた。
今作にはそうした1974年版へのオマージュも入っている。序盤に74年版で主演を果たした西城秀樹の往年のヒット曲「激しい恋」がかかる。しかも、誠が不良グループをバッタバッタとなぎ倒しながら、歌謡ショーよろしく大立ち回りを演じるのだ。もはやこのノリ、完全に大衆演劇のようである。
かように今作は何の前触れもなくミュージカルをかましてくるので、最初で入り込めなければ最後まで見るのは少々厳しい映画かもしれない。リアリティを求めず、純粋にエンターテインメントとして割り切って見るべき作品である。
そもそも、映画の幕開けはアニメーションから始まる。ここからして三池監督の劇画タッチの宣言に他ならない。完全にリアリズムを払拭した導入部である。
物語の方は展開に荒唐無稽な部分もあるが、愛と誠が真の愛で結ばれていく過程は上手く描けていると思った。加えて、誠には自ら抱えるトラウマを克服するというドラマが用意されてる。こちらも綺麗にまとめられている。
ビジュアルも面白い。原作が1973~76年に発表された作品なので、映画の時代背景もそれに合わせて設定されている。サイケでグラマラスな美術がどこかファンタジーの様相を呈し、独特の空間を形成している。人工的で演劇的な背景が横溢するので、そこで歌やダンスが行われてもそれほど違和感はない。逆に、ナチュラルな風景の中でそれが行われると違和感を持ってしまう。個人的には、愛が歌う「あの素晴らしい愛をもう一度」のシーンは白けてしまった。
ミュージカルシーンは今作の大きな見所である。序盤の誠の大立ち回り、井原剛志が怪演する権太の登場シーンは特に印象に残った。権太は見た目からして厳ついキャラなのだが、それがTVアニメ「オオカミ少年ケン」の主題歌で登場してくるのだ。この選曲センスは素晴らしい。しかも、撮り方が完全に「ストリート・オブ・ファイヤー」(1984米)や80年代のPV風なノリである。当然そのあたりも狙ってやっているのであろう。思わずニヤリとさせられた。
主要キャストは今時のイケメン、美少女で固められている。誠役は妻夫木聡、愛役は武井咲が演じている。物語の時代背景に不似合な今風の人気俳優をキャスティングしたことで、そこに背景とのギャップが生まれる。これがまた珍妙で面白かった。特に、武井咲の天然ボケなお嬢様振りが面白い。
他にガムコを演じた安藤サクラのスケバンぶりも印象に残った。元々こうしたやさぐれキャラは得意とするところであるが、今回は周知のように完全に劇画チックな世界である。完全に振り切った演技が堪能できる。
しかも、このキャラは原作ではチョイ役だったらしいが、今回の映画化にあたって大きくフィーチャーされたキャラクターである。第三のヒロインとして、メインの二人に引けを取らないほどの存在感を見せつけ印象に残った。
特に、病院のシーンは中々味わい深い。彼女は誠に惚れているのだが、立場上身を引かねばならぬ定めにある。その想いを胸に仕舞って、誠が入院している病室の前にそっと花を置いて去っていく姿が実にいじらしかった。
ただ、ガムコのドラマは最後に投げっぱなしなままで終わっているので、そこは少々勿体ないという感じがした。これでは暗すぎるし中途半端である。彼女は悪ぶっていても本当は乙女の心を持ったロマンチックな少女である。せっかくここまでフィーチャーしたのだから、そのあたりを鑑みてもう少し救いのある締めくくり方にしてほしかった。
他には、愛に恋焦がれるクラスメイト・石清水弘を演じた斎藤工も中々に良かった。特に、クライマックス直前の釣堀のシーンは彼の見せ場である。このドラマに登場する人物は皆、誰かが誰かを愛しているが、その相手が他の誰かに夢中である‥という、非常に入り組んだ人間関係となっている。石清水の場合は愛を愛しているが、愛は誠を愛している。どんなに恋焦がれても彼の想いは愛には届かないのである。その切ない恋心がこの釣堀のシーンで露わになる。「愛する人が幸せになることが僕にとっての幸せだ。」彼は序盤で誠にそう言い放つが、そのセリフがここで反芻されしみじみとさせられた。非常に暑苦しい演技であるが、それがかえって胸を打つ。