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ラスト・オブ・イングランド

自身の半生を様々な映像をコラージュさせながら作った異才の意欲作。
ラスト・オブ・イングランド [DVD]ラスト・オブ・イングランド [DVD]
(2000/07/25)
ティルダ・スウィントン、スペンサー・レイ 他

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「ラスト・オブ・イングランド」(1987英)星5
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 1人の男が暗い部屋で過去の記憶を辿っていた。それは両親と楽しく過ごした幼年期の思い出...。少年は成長するとゲイになった。そして戦争が始まり街が破壊される。テロリストに婚約者を殺された女は絶望に打ちひしがれ、空は深い夕闇に寝食されていくのだった‥。

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(レビュー)
 異才D・ジャーマン監督による私的フィルム。

 前作「エンジェリック・カンヴァセーション」(1985英)同様、セリフを排した映像コラージュで構成されている。但し、映像の傾向は前作と大きく異なる。基本的にはゆっくりとたゆたうような映像が続くが、今回は幾つかドラマのポイントとなる場面で目まぐるしい編集が見られる。まるでサブリミナル効果を狙ったかのような明滅的な映像は実に荒々しい。とりわけ中盤の「戦争」の混乱を象徴したであろう超高速編集は、何と6分間に1600ショット入れたと言われている。これは他に類を見ない斬新な映像である。

 一方、ストーリは散文的で、何か大きな幹となるようなドラマは用意されていない。一応、5つの断片的なエピソードは確認できるが全てがバラバラで、そこから何を感じ取るのかは見た人それぞれに託されている。

 まず一つ目は、部屋で男が物思いに更けながら日記か何かを見ているエピソードである。薄暗いモノトーンで表現されており何とも陰鬱な雰囲気が漂っている。過去の様々な思い出を振り返っているのだろうか?
 次に、ジャーマンの両親や祖父によって撮られたホーム・ムービーが登場してくる。そこには幼い頃のジャーマン自身が写っていて、温もりに満ちた家族の愛情が感じられた。
 3つ目は、孤独な少年の日常を描いたエピソードである。少年はドラッグをキメてカラヴァッジオの絵画に下半身を擦り付けながら自慰にふけっている。少年の暗く荒んだ心情が滲み出ているエピソードである。
 4つ目は、イギリスがテロ戦争に巻き込まれるという、一種異様なSF的エピソードとなっている。主人公はゲイの青年で、彼はテロリストと交わったことで悲劇的な運命を辿っていく。
 そして、最後に登場するのが、婚約者を失った花嫁の慟哭である。

 この他にも、廃墟の中を松明を持って歩く男、焼け野原で腐った野菜を食べて嘔吐する全裸男といった映像が挿入されている。自分にはそれらが何を意味しているのか理解できなかったが、おそらく何かを象徴する者たちなのであろう。そこに込められた意味よりも映像が印象的だった。

 この映画はこうした断片的なエピソードを紡ぎながら展開されていく。それが見ようによってはワケが分からない、退屈だと思う人もいるだろう。ただ、確かにバラバラではあるのだが、一つ一つのエピソードを租借しながら読み解いていけば、大きなメッセージ、テーマは導けるような気がする。

 幸せだった幼年期、鬱屈した少年期、ゲイとしての目覚めた青年期、そしてエイズを告知され死を待つ現在。実は、これらはすべてジャーマン本人が辿ってきた半生と一致する。つまり、今作は彼自身の生涯を紡いだ壮大なページェントなのではないだろうか。特異な映画作家の人生、苦悩、幸福が凝縮された1本のように思う。
 
 そして、もう一つ。製作されたイギリスの時代背景を考えてみると、幻想的な作風の中にも鋭い風刺が所々に読み取れるのも興味深い。80年代のイギリスと言えば、経済不振が続き国中が停滞ムードに陥っていた頃である。以前紹介した「THIS IS ENGLAND」(2006英)にもそのことは如実に表れていた。若い失業者やホームレスが道端で物乞いをするような暗く寒い時代だった。
 この国中に蔓延した絶望感が、病魔に侵されたジャーマンにこのようなデカダンでカオスな作品を撮らせた‥という風には考えられなくはないだろうか。自身の崖っぷちの人生とイギリスという国の破綻をどこかで重ねているようにも見える。これが当時のD・ジャーマンの正直な心情の吐露であり、イギリス社会の実情だったのかもしれない。

 映像は例によって8ミリ、16ミリ、ビデオを織り交ぜながら様々なフィルターで色彩加工されている。鬱症的なブルーを基調とした寒色トーン。戦争、死、血を連想させる刺激的な赤。そして、彼の幼い頃を捉えたホーム・ムービーは暖色トーンで切り取られている。様々に使い分けられる色彩トーンに映像アーティスト、D・ジャーマンの才能が伺える。
[ 2014/06/23 00:55 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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