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グランド・ブタペスト・ホテル

まるでおもちゃ箱のような世界観が楽しい。
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「グランド・ブタペスト・ホテル」(2013英独)星5
ジャンルコメディ・ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 かつてヨーロッパで栄華を誇ったグランド・ブタペスト・ホテルは、今ではすっかり寂れて閑古鳥が鳴いていた。そこに一人の若き作家がやってくる。彼はホテルのロビーで寂しく座る老人を見つける。実はその人はホテルのオーナー、ゼロ・ムスタファだった。作家は彼からこのホテルを受け継いだ経緯を聞かされる。
 1932年、ゼロはここで伝説のコンシェルジュ、グスタヴの下でベルボーイとして働いていた。ある日、彼らは常連客の一人マダムDの訃報を知る。生前、グスタヴは彼女と親しい仲にあった。早速、グスタヴはゼロを連れて彼女の屋敷へと向かう。到着すると親戚一同が集まって遺言が開示されていた。そこには高価な絵画をグスタヴに相続すると書かれていた。一同は騒然となるのだが‥。

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(レビュー)
 遺産相続の騒動に巻き込まれるホテルマンの冒険を軽妙に綴ったサスペンス・コメディ。

 共同製作・監督・原案・共同脚本はW・アンダーソン。徹底的にデコレーションされた世界観を構築しながら、視覚的快楽をとことん追求した映像が実に見事で、キューブリックやジュネ&キャロの作品に通じる完璧さに驚かされた。シンメトリックな構図に対する執着、機械的なカメラワーク、パステルとゴシックを融合させた独特のトーン。映像の全てにおいてアンダーソン監督こだわりが感じられる。まるで「映画は映像だ!」と言わんばかりの偏愛である。

 また、ドラマの中には戦争の悲劇、人間の業といったメッセージが皮肉的に織り込まれており、尚且つアクション、サスペンス、コメディ、ペーソスといったテリングも充実していてエンタテインメントとしても十分な見応えを感じた。
 ストーリーはスピーディーに進み、上映時間はたったの100分。これも大変見やすい時間である。そして、シナリオはシンプルなきらいはあるが、ボルテージの盛り上げ方、伏線の回収、結末の落とし所まで実に周到に組み立てられていると思った。ラストも見事である。まさかあの絵画があそこに飾られていたとは誰も気付くまい。実に人を食ったオチで良い。

 このように本作は、映像的な面白さ、スクリューボール・コメディとしての完成度の高さ、メッセージ性とテリングがほどよくミックスされたシナリオ、全てにおいてケチのつけようがない傑作になっている。改めてW・アンダーソン監督の手練には感心させられた。

 ‥と、ここまで書いておきながら、自分は彼の作品はここ最近の物はずっと敬遠してきていた。どうして敬遠していたかと言うと、最初期に見た作品「天才マックスの世界」(1998米)と「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」(2001米)が今一つ自分の肌に合わなかったからである。独特の”間”を利用したオフビートな笑い、同じ構図が続く代わり映えの無い画面。それらがどうにも退屈に思えてならなかったのである。無論、両作品とも駄作と言うつもりはないが、俺の中では評価が今一つだった。

 その後、彼は次々と新作を撮り、批評的にも興業的にも成功を収めていった。特異なセンスを持ちながらここまで順調な成功を果たした監督というのも珍しいのではないだろうか。その後の作品を見ていないので、初期時代の作風がどこまで洗練されているのか分からないが、少なくとも彼は独自のやり方で確実にステップアップしてきた監督の一人だと思う。

 そうして作られたのがこの最新作である。今作はベルリン国際映画祭で審査員特別賞・銀熊賞を受賞。興行的にも彼のフィルモグラフィー上で最大のヒット作となった。

 実際に見てみると、初期時代のクセのある作風は随分と様変わりした印象である。ポップで軽快な作りを前面に出しながら、割と大衆向けに作ろうという意識が感じられる。おそらく、そこが自分にフィットした最大の要因だと思う。

 ちなみに、ストーリー展開に難癖をつけるとすれば、余りにも目まぐるしく話が進むため、観客を置いてけぼりにしてしまうのではないか‥ということである。ここまで話が急転するとドラマの真実味が薄まり、その結果乗れない観客はひたすら乗れない‥ということになりかねない。
 ただ、考えてみればこの物語の舞台は架空の国であるし、遺産を巡るドタバタ狂騒劇もほとんど冗談みたいなファンタジーの領域にある。主人公のグスタヴにとっては気の毒な話かもしれないが、見ている観客からすればほとんどブラック・コメディに近い面白さがある。したがって、ドラマにリアリテイィを求めるよりも、このくらいあやふやな現実性で突っ走っていったのは、観客の好き嫌いはあるかもしれないが、狙いとしては決して間違ってはいないと思った。

 加えて、このドラマは老いたゼロが作家に話して聞かせる‥という劇中劇の構成になっている。以前見た山田洋次監督の作品で「馬鹿が戦車でやってくる」(1964日)という映画がある。あれも語り部が観光客に話して聞かせるという劇中劇の構成をとっていた。ハナ肇扮する馬鹿が戦時中の戦車を乗り回して村を破壊しまくるという破天荒なドラマは、丁度本作の遺産相続の狂騒劇のように、ある種虚実入り乱れた”おとぎ話”のように見れてしまう。だとすると、そこにはむしろリアリティは不要なのではないか‥という気がする。

 今作の映像が極めて人工的でマンガ的なタッチになっているのも、ストーリーが驚くほどアップテンポに展開されるのも、全てW・アンダーソンが敢えて寓意性を狙ってやった計算なのだろう。

 キャストも豪華で見応えがあった。かつてのハリウッドではオールスター・キャストによるパニック大作映画がよく作られていたが、今作は上映時間100分という小品ながら、過去のそうした大作映画に通じるようなゴージャス感が感じられた。

 中でも、遺産相続の影で暗躍する殺し屋を演じたW・デフォーの怪演はインパクトがあった。この強烈なビジュアルは彼にしか出せない味だろう。
 また、J・ゴールドブラムを本作で久々に見た。大分老けてしまったのでクレジットが出るまで気が付かなかった。同様に、老けメイクをしたT・スウィントンも、クレジットを見るまで気付かなかった。
 久しぶりと言えば、H・カイテルも意外な姿で登場してくる。これにはついつい笑ってしまった。
 他に、グスタヴを演じたレイフ・ファインズや料理長を演じたM・アマルリックを筆頭に、B・マーレイ、J・ロウ、E・ノートン、A・ブロディ、O・ウィルソン、W・アンダーソン作品の常連J・シュワルツマン等、錚々たるメンバーが登場してくる。これだけ豪華なキャストが集まれば、もうそれだけでも見て得した気分になってしまう。
[ 2014/07/12 23:43 ] ジャンルコメディ | TB(0) | CM(0)

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