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魚影の群れ

ダイナミックなドラマで見応えがある。マグロとの格闘シーンが素晴らしい。
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(2011/11/23)
緒形拳、夏目雅子 他

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「魚影の群れ」(1983日)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 下北半島の漁港・大間。一人でマグロ漁をする房次郎は年頃の娘・トキ子と暮している。ある日、トキ子から紹介したい人がいると言われて驚く。相手は喫茶店を経営する俊一という青年だった。房次郎はこの結婚に反対する。俊一は何とか認めてもらおうと、店を手放して房次郎の漁を手伝うことにした。しかし、初めての船出で彼は負傷してしまう。どうにか九死に一生をとりとめたが、トキ子は房次郎と親子の縁を切って俊一の元へ去ってしまう。

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(レビュー)
 マグロ漁に賭ける男たちの戦いを大海原の中に活写した骨太な人間ドラマ。

 歴史小説家・吉村昭の同名原作を鬼才・相米慎二が監督した作品である。主演は緒方拳。共演は佐藤浩市、夏目雅子。

 吉村昭と言えば、大正時代に北海道で起こった「三毛別羆事件」を書いた「羆嵐」が思い出される。この事件は開拓民7名がヒグマに襲われて死亡したという事件で、当時かなり話題になったということである。吉村昭はそれを綿密にリサーチした上で圧倒的なリアリズムで小説を書き上げた。その彼が、本作では人間と巨大マグロの格闘を描いている。本作の原作は未読であるが、おそらくは「羆嵐」同様、力のこもった小説になっているのではないだろうか。

 そして、監督の相米慎二の作家性を鑑みれば、吉村のリアリズムを再現するという意味では、非常に相性がいいと言える。相米慎二と言えば長回しである。それが過酷なマグロ漁を熱度高く捉えているのだ。

 特に、印象に残ったのは中盤。房次郎が150キロもあるマグロを釣り上げるシーンである。房次郎を演じた緒方拳の熱演も奏功し、本当にその場で生きた巨大マグロを引き上げているような、そんな錯覚にとらわれた。これぞ長回しによる相米流ダイナミズムである。演者も相当体力を強いられる撮影だが、臆せずリアリズムに傾倒した相米監督に自分は作家としての意地とプライドを見た。

 日常の芝居にも長回しは印象的に使われている。
 例えば、十朱幸代演じる元妻と房次郎の再会シーンは、それだけでもう一つのドラマ性が感じられる。元妻の足元のクローズアップから旅館の2階、玄関、大通りに出るまでを延々と追いかけながら二人の再会をドラマチックに切り取っている。しかも、外はどしゃ降りの雨が降っていて、その中を2人は、がむしゃらに走るのだ。何という激烈な感情表現。自分は、あれほど強靭だった房次郎が未練たらたらで元女房を追いかける姿を見て、何だか憐れな中年男のように見えてしまった。

 その一方で、演出的に引っかかる部分も無くはない。2点だけやや過剰に思える個所があった。
 一つは、俊一が初めて漁に出て負傷するシーンである。普通であれば悲鳴あげて卒倒してもおかしくないような所を、彼は茫然と海を眺めている。そして漁の糸が絡まって頭から血を噴き出すのだ。この部分のスプラッタ演出がかなり大仰で、ほとんどブラックコメディのように映ってしまった。自分の身に何が起こっているのか分からないという感じを出そうとしたのだろうが、それにしたって流血の量がハンパではない。全体のリアリズムなトーンからも懸け離れている。

 もう一つは、俊一がトキ子に抱き着いて、突然めまいでも起こしたかのように急に静まり返るシーンである。おそらく負傷した時の後遺症か何かだろう。それで彼は急に気分が悪くなってしまうのだ。しかし、そもそもあれほど過酷な漁をしている男が、そんなに簡単にめまいを起こすだろうか?ちょっと疑問に思えてしまった。

 しかし、こうした不自然さ、違和感を抱いたのはこの2点くらいである。それ以外は堅実で熱度の高い演出が貫かれており、改めて相米監督の手腕に感心させられた。

 キャスト陣では、やはり緒方拳の熱演が光る。この役作りのために、1カ月も前から撮影現場に入って実際にプロの漁師から手ほどきを受けたという。このプロ根性には頭が下がる。
 また、トキ子を演じた夏目雅子の好演も印象に残った。男たちを健気に支える母性を振りまきながら、その一方で彼らを叱咤する気性の強さを見せつけ、硬軟自在に演技を披露している。とりわけ、海に向かって叫ぶラストの演技は印象深い。

 ところで、ここまで振り返って改めて思ったのだが、この映画。何となくL・ベッソン監督の「グラン・ブルー」(1988仏伊)に似ているような気がした。マグロに夢中な漁師の戦い、イルカに夢中な素潜り選手の戦い。素材は違えど、どちらも海を舞台にした男たちのドラマである。そして、彼らは揃って神秘的で巨大な海の世界に取りつかれ、身を亡ぼしていく。更に、彼らを愛したヒロイン達は揃って失意の涙を流す。このように「魚影の群れ」と「グラン・ブルー」には共通する点が多い。

 よく言われることであるが、男と女では求めるロマンが違うという。男は仕事や趣味に生きがいを求めるが、女は家庭や恋愛を最優先に考える生きものである。この違いがそのまま表れたのがこの両作品のような気がした。

 ひょっとすると、男女でこの映画の感想は異なるかもしれない。男であれば緒方拳の方に感情移入し、女であれば夏目雅子の方に感情移入するかもしれない。多面的に捉えることが出来るのが、映画という物のもう一つの面白さである。
[ 2014/07/22 01:03 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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