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あ、春

実は結構ヘビーなホームドラマ。
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(2012/03/28)
佐藤浩市、斉藤由貴 他

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「あ、春」(1998日)星3
ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ)
 証券会社に勤める紘は良家のお嬢様・瑞穂と結婚して、幼い息子、義母と平和に暮していた。ある晩帰宅途中に、父と名乗る笹一という中年男に呼び止められた。紘は母から、幼い頃に父は死んだと聞かされていた。突然の来訪に戸惑う紘。それをよそに、笹一は家に上がり込んでそのまま居座ってしまう。その後、笹一は数々の奔放な振る舞いで家族を振り回す。ついに紘は怒って笹一は追い出してしまうのだが‥。

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(レビュー)
 長年疎遠だった父の来訪をきっかけに家族が混乱していく様子を、時にコミカルに、時にしみじみと描いたホームドラマ。

 一見するとコメディのように見える作品であるが、実際には所々にギョッとするようなシビアなシーンがある。

 例えば、紘と瑞穂の夫婦関係にはヘビーな問題が隠されている。映画冒頭、何気ない朝食風景が映し出される。この時、瑞穂はおもむろに薬を取り出して飲もうとする。紘はそれをチラ見して「量が増えたな」と冷たく言い放つ。これでこの夫婦は普段から冷めた関係なんだな‥というのがよく分かる。
 また、その後のベッドシーン。瑞穂は眠っている紘の腹に噛みつく。これは彼女の欲求不満の表れであり、この夫婦のセックスレスを暗に物語っている。瑞穂の行動がどうかするとサイコチックで少し恐ろしい。
 更には中盤、瑞穂が咳き込むシーンがある。ここで冒頭の薬の意味が分かる。彼女はずっと喘息で苦しんでいたのだ。これにはさすがの紘も心配して彼女の容態を気遣う。しかし、その途端に彼女はガラリと豹変して急に笑い出すのだ。全ては芝居だったのである。夫に構ってもらえない妻の仕返しである。
 こうした一連のシーンから、この夫婦関係は実際には冷めきっているということがよく分かる。面と向って喧嘩をすることがない分、かえって不気味で恐ろしい。この夫婦破綻のドラマは中々見応えがあった。

 ただ、基本的に今作はコメディとして料理されている。上述したように辛辣な場面もあるにはあるが、それはコメディ場面を活かすためのシリアスであって、映画のテイストはコメディ寄りである。
 例えば、瑞穂たちが変装して笹一を探しに行く演出や、笹一を追いかけてきた愛人のコミカルな造形等、かなりベタな笑いもある。

 監督は相米慎二。原作は村上正彦の「ナイスボール」という小説である(未読)。それを「祭りの準備」(1975日)の原作などで知られる中島文博が脚色している。

 全体的には面白いドラマだと思ったが、設定に若干説得力が不足しているような気がした。原作が元々そうなっているのか、あるいは脚色の段階で簡略化されてしまってるのか分からない。だが、コメディとして割り切ったとしても、作りがそれほどはっちゃけているわけではないので、どうしても気になってしまう。

 例えば、父の消息を30年も知らないなんてことが本当にあるだろうか?母親に「父はお前が幼い頃に死んだ」と言われて、何の疑いもせず信じ切っていた紘の鈍感さは、このドラマにおける最大の疑問点である。
 また、終盤、母親は紘に突然、出生の秘密をカミングアウトする。その言葉を真に受けてしまう所にも違和感を持った。普通はこんなことを突然言われたら、誰だって信じられず、というよりも信じたくないという心理の方が先に働いて当然だろう。ところが、彼はその言葉を簡単に呑み込んでしまうのだ。もしかしたらコメディとして敢えて軽く演出したのかもしれないが、だからと言ってここは決して笑えるシーンとは言えない。むしろシリアスなシーンである。

 一方、これは相米監督の演出の問題になると思うが、クライマックスのささやかな”軌跡”も、今一つ心に響いてこなかった。というのも、ご存じのように相米監督は長回しの名手である。ここも1カット1シーンで撮られているのだが、本来であればここは画面に抑揚をつけてダイレクトに”軌跡”の感動を演出すべきだったのではないだろうか。相米監督はここを淡々と切り取ってしまっている。これではせっかくの”軌跡”も何だか味気ない。

 他にも幾つか長回しのシーンはある。ただ、概ね平板で何だか面白みに欠けるという感じがした。逆に言えば、かつてあれほどのパッションと祝祭感で見る者を魅了した長回しも、このあたりになるとほとんど自然に見れてしまうほど滑らかになっている‥という風にも言えるのかもしれない。個人的にはゴツゴツとした、かつての長回しの方が好きである。

 ちなみに、先述の紘の母のカミングアウトだが、この時の笹一のアッサリとしたリアクションは色々と想像できて面白い。おそらく、笹一はある程度、身の引き際を考えていたのではないだろうか。元妻と面と向かって話をする。それが目的で帰ってきたのかもしれない。そして、それが実現したからこそ、彼はあそこで素直に身を引いたのだと思う。

 そう考えると、奔放な振る舞いで周囲を混乱に陥れた迷惑爺さんも、何だか可愛く見えてくる。別れた女房と一目会ってこの世の去ろうなんて、何と奥ゆかしい人生のケジメのつけ方だろう。見てる最中は困った爺さんだと思っていたが、見終わる頃には何だか哀愁が湧いてくるから不思議である。
[ 2014/07/24 00:49 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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