ボンクラどものラプソディー。
「エロスは甘き香り」(1973日)
ジャンルロマンス・ジャンルエロティック
(あらすじ) しがないカメラマン浩一は、服飾デザイナーをしている悦子と知り合い、そのまま彼女の部屋で同棲することになった。悦子には恋人・敏夫がいたが、彼は出て行ったきり帰ってこなかった。そんな寂しさもあって彼女は浩一の腕に抱かれた。その後、悦子の友人、昭と雪絵が転がり込んできた。昭は売れない漫画家をしていて、雪絵がホステスをしながら彼を養っていた。4人は怠惰な日々を送りながら、奇妙な共同生活を始めていく。
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(レビュー) 4人の男女の奇妙な同棲生活を官能的なベッドシーンを交えて描いたロマンス作品。
随所に濡れ場が登場するロマンポルノ作品だが、基本的には当時の若者たちの生き様を描いた青春映画となっている。
監督は藤田敏八。脚本は異才・大和屋竺。このコンビで作られた映画は数本あるが、個人的には「八月の濡れた砂」(1971日)は最も印象に残っている。いわゆる、この頃の藤田監督が得意としていたモラトリアム青春映画で、当時の怠惰な空気感がよく表れた作品だった。今作にもそれと同じような空気感が流れている。何をやってもうだつの上がらない浩一たちの挫折に、当時の閉塞的な若者社会の投影が感じられた。
ポルノを撮ることでしか写真家としての自分をアピールできない浩一。恋人を友人に奪われ、その怒りをレイプでしか解消できない昭。そして、彼らを拒みながらも、結局快楽に身を委ねてしまう悦子と雪絵。4人の未来は実に混沌とした暗闇の中で陥溺している。
特に、クライマックスとなる悦子と昭のセックスシーンは印象的だった。浩一に雪絵を奪われた昭は衝動的に悦子を犯してしまう。部屋の外では浩一の写真が燃やされる。浩一はそれに見向きもせず、ひたすら昭たちのセックスをカメラに収めていく‥。
理性を無くした人間の本性が赤裸々に投射されたこのシーンは実に荒々しく、そしてひたすら虚しい。行き場を無くした若者の快楽と暴力への逃避が鮮烈に印象付けられている。
尚、この時に浩一と悦子はアイコンタクを交わすのだが、この演出も秀逸だった。この時の浩一を見る悦子の眼差しが、どこか蔑むような、それでいて労わるような目に感じられた。それは浩一を見捨てることができないという悦子の母性だったのかもしれない。悦子役は桃井かおり。この時の目の演技が実に素晴らしい。
ただ、このクライマックスシーンは大変見応えがあったのだが、全体のストーリーを考えると、日和見な部分が多く今一つだった。悦子の元恋人・敏夫や、バーのママ・雀等、ドラマ内での役割が不明瞭なサブキャラもいる。このあたりは使い方次第でもっとドラマを面白く掻き回すことが出来ただろう。勿体なく感じた。
加えて今作はロマンポルノ作品という性格上、15分に1回はベッドシーンが出てくる。そのたびにストーリーが中断し歯がゆい思いにさせられた。
更に、ラストもいただけない。え?これで終わり?というような終わり方になっている。これも個人的には食い足りなかった。
キャストでは、浩一を演じた高橋長英の好演が光っていた。荒々しい衝動を活き活きと表現している。
一方、悦子を演じた桃井かおりも、この人にしか出せない独特の雰囲気を出しながら好演している。本作は彼女にとっての唯一のポルノ出演作品である。これまでも何度か彼女のベッドシーンは見てきたが、これほど大胆な濡れ場は今まで見たことがなかった。