今回はとにかく”勢い”のある日本映画だ。
石井聰亙監督は未だに現役バリバリで尖った作品を撮り続けている。
でも、これは勢いのレベルが違う。あっけに取られること間違いなし。
そして、笑いのあとにチクリと刺さってくる。
「逆噴射家族」(1984日)
ジャンルコメディ(あらすじ) 実直なサラリーマン小林勝国は、明るい妻と浪人生の息子、高校生の娘と郊外の一戸建てに引っ越してきた。憧れだったマイホームを手に入れ幸せを噛み締める勝国。そこに父寿国がやって来た。初めは皆も歓迎するが、一緒に住むとなると一同に迷惑がるようになる。父と家族の板ばさみにあう勝国はストレスが溜まりついに逆噴射!スコップで居間を掘り始める。「地下に部屋を作ってそこに父と住むしかない!」家族の制止もきかずもくもくと掘り続ける勝国と寿国。シロアリを発見して大騒動に‥。
DMM.comでレンタルする映画生活goo映画

(レビュー) 文字通り”家”が崩壊していく様をアッパーに綴ったディストラクション・コメディ。監督脚本は石井聰亙。原案脚本は小林よりのり。ギャグマンガ「東大一直線」のネタが実写で再現されていて思わずクスリとしてしまった。
よく人が精神的に病んだ状態を”ビョーキ”と言うが、ここに登場する家族達は正にその”ビョーキ”になっていく。その過程は、父権社会の、言い換えれば父親の権力の指標とも言える”マイホーム絶対主義”を痛烈に皮肉ったものである。今でこそ、その考え方は人生におけるプライオリティが落ちてきた感もするが、”温かな家庭”を築くことはいつの世にも共通する命題だ。そういう意味で、この大狂騒は興味深く見ることが出来た。
映画が始まって30分ほど経って、勝国は突然暴走し始める。それまでは何とも気の抜けた展開なのだが、そこは石井聰亙監督。彼のパンクスピリットが蓋を開けると、あとはせきを切ったように怒涛の展開が始まる。突然登場する砕岩機。”男の強さ=ドリル”と言わんばかりに勝国は掘りまくる!そして、彼の”ビョーキ”に当てられたかのように家族全員が奇行に走り始める。妻は包丁を研ぎ始め、息子は部屋に引きこもり、まるでお経のように暗記文を部屋中に書きなぐる。アイドルデビューを目指していた娘は突然プロレスラーに転進。そして、寿国は軍服を身にまとい、戦中よろしく軍刀を振りかざす。走り、叫び、燃え、流血する。邸宅を戦場とみなした骨肉の争いは、凄まじいという形容を通り越してもはや笑いしか出てこない。しかし、これほどまでの破天荒な展開でも、ふと世間を見渡せば遠からず似たような光景はあるのではないかと思えてしまう。おそらくちょっとしたボタンの掛け違いなのだろう。
本作で難を言えば、クライマックスが少々陳腐で学芸会っぽさが匂う所だ。演出やギャグの過剰が仇となってしまったような気がする。もっとも、この陳腐さを取り払ってしまうと全然笑えない代物になってしまうのだが‥。このさじ加減は実に難しい。
ただ、その後に続く哀愁漂うオチは秀逸だった。中々心憎い結末である。