中々深読みをさせる作品。
「テイク・シェルター」(2011米)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) エンジニアのカーティスは、真面目に働きながら愛する家族と幸せな暮らしを送っていた。ところが、最近になって彼は度々悪夢を見るようになる。嵐に見舞われたり、飼い犬に噛まれたり、謎の男たちに襲われたり‥。次第にカーティスは精神に異常をきたしていくようになる。そして、身の回りの脅威から家族を守るために地下シェルターを作ってそこに避難しようと考え始める。
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(レビュー) 強迫観念に駆られた男の恐怖を異様なムードで綴ったサイコ・サスペンス作品。
全編落ち着いたトーンで作られた作品で、余りにも淡々としているので正直、少し退屈してしまう映画だった。
また、登場人物の範囲がミニマムに設定されているのも味気がない。このあたりは低予算映画なので仕方がない所かもしれないが、しかしやりようはあったように思う。何も世界規模の大事件を描けとは言わないが、少なくともこの町を巻き込むような世界観は欲しかった。そうでないとここで描かれている事件が余り重要な問題に見えなくなってしまう。
一方、演出は中々凝っていて、時折挿入されるカーティスの悪夢は刺激的で見入ってしまった。
嵐の接近を不気味に表した雲、天から降りそそぐオイルのような雨、飼い犬や周囲の人間たちのショッキングな凶行、様々な悪夢をカーティスは見る。そのどれもが強く印象に残った。静かさと平穏に満ちた日常との対比も上手くはかられている。
また、ラストのオチも深い余韻を引く。果たしてカーティスの妄想か?現実か?迷わせる所が良い。映画を噛みしめたくなる。
更に、製作サイドが何を描こうとしたのか?そのテーマもよく理解できた。要するに、これは今の世界に蔓延する不安を寓話的に描いて見せた映画なのだと思う。
カーティスは、自分が見る悪夢と現実をごっちゃにして、もしもの時に備えて全財産をはたいて地下シェルターを作ろうとした。家族や友人たちに非難されても、いつ危険が襲ってくるか分からないと、彼はシェルター作りにのめり込んでいくのだ。
確かに、傍から見れば彼の行動は奇異に写るだろう。しかし、何が起こるか分からないのが今の世の中である。果たして、我々は彼の行動を笑っていられるだろうか?
例として持ち出して悪いが、先頃東日本を襲った巨大地震。あるいは、アメリカで起こった9.11の同時多発テロ。これらは誰にも予想できなかった天災、事件である。こうした緊急避難的な危機が起こった場合、我々は慌てふためくだけで何も出来す、成すすべなく運命に呑み込まれていくだけである。これ以降、おそらく多くの人々が不安に襲われていることと思う。その不安を体現したのが今作のカーティスなのではないだろうか。彼の行動を一概に笑うことはできない。誰の心の中にも少なからず存在する”恐怖”をこの映画は鋭く突いているのである。
一方、このように作品の裏側を読まずとも、今作を純粋にエンタテインメントして楽しむ方法もありだと思う。個人的には、この映画はディザスター・ムービーの亜流と捉えた。但し、派手な映像で災害シーンを見せてハラハラドキドキさせるような大作ではない。あくまでカーティスの脳内だけで繰り広げられる災害。極めてミニマムなパニック映画である。こういうのをアイディア勝負の映画と言うのだろう。
小品なため色々と限界が見えるが、そこを甘んじて受け止めれば中々の鋭さを持った作品として楽しめる。