この映像と音の迫力はぜひ劇場で!
「リヴァイアサン」(2012米仏英)
ジャンルドキュメンタリー
(あらすじ) 北太平洋に出た大型底網漁船の漁業の様子を捉えたドキュメンタリー映画。
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(レビュー) 人類学者で映像作家でもあるルーシァン・キャステーヌ=テイラーとヴェレナ・バラヴェルが、数週間に渡る漁の様子を迫力のある映像で綴ったドキュメンタリー作品。
ナレーションも字幕もなく淡々と漁の様子を捉えた約90分の作品だが、音と映像の迫力に完全に圧倒されてしまった。
荒れ狂う海。打ち上げられる大量の魚、漆黒の闇夜を無数に飛び交う鳥、インダストリアルな漁船の機械音、まるで怪獣の鳴き声のような海の音、汗と魚の血にまみれて黙々と働く漁師たちの姿。それらをカメラは無機質に捉えていく。しかも、特殊な小型カメラが多用されており、被写体に必要以上に肉薄していくのだ。この圧迫感、緊迫感は尋常ではない。これは”体感する”映画だと思う。劇場の大きなスクリーンとクリアな音響で鑑賞して欲しい映画である。
尚、魚をさばく手元をドアップで見せるなどグロテスクなシーンもあるので、そういった物が苦手な人にはきついかもしれない。また、手持ちカメラが多用されているので画面がかなり揺れる。酔いやすい人も注意した方が良いだろう。
個人的に最も印象に残ったのは、カメラが海中に潜っていくシーンである。カメラが海の中を出たり入ったりするのを繰り返すだけなのだが、これがかなり恐ろしかった。溺れるというのはこういうことなのかもしれない‥という恐怖に襲われた。これぞ”体感する”映画である。見てて気持ちが良いものではないが、こういう体験は中々できない。それを味あわせてくれるのが本作である。
また、終盤の天地が逆転した映像も、異様なカオス感に包まれていて印象に残った。夜なので海も空も真っ暗である。当然、上下の感覚が完全になくなってしまう。そこを真っ白な鳥が無数に飛びかい、何とも例えようのない悪夢的な恐ろしさに捕われた。人間とはおかしなもので、五感が失われるだけで恐怖に陥るものである。自分はどこを見ているのか?どこに立っているのか?そうした感覚を全て奪われてしまうのがこのシーンである。
これを撮った監督の作品は初見である。元々映像作家ではなく人類学者ということなので、このドキュメタリーを撮った経緯は分からない。ただ、後になって彼らのフィルモグラフィーを調べてみると、他にもビデオ作品や写真集などを発表しているようである。いわゆる現代アートのフィールドでも、彼らは積極的に活動しているのである。学者でありながらアーティストでもあるというこの風変わりな経歴。ちょっと興味が湧いてしまった。
尚、この「リヴァイアサン」は海についての3部作の1作目として作ったということである。次回作は一体どういう内容になるのか注目である。