女優S・ポーリーがドキュメンタリー映画の根幹を問いただす。
「物語る私たち」(2012カナダ)
ジャンルドキュメンタリー
(あらすじ) 女優であり映画監督でもあるサラ・ポーリーが自らの出自に迫ったドキュメンタリー映画。
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(レビュー) 天才子役としてデビューし、ハリウッドの第一線で活躍する女優サラ・ポーリー。彼女は
「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」(2006カナダ)で監督業にも進出し、その才能をいかんなく発揮した。本作は、その彼女が撮ったドキュメンタリーである。
映画はサラの家族や友人たちのインタビュー、過去のプライベートフィルムを写しながら展開されていく。そこで話題になるのは女優業をしていた亡き母の半生。そして、彼女が一体誰と関係を持ったことでサラが生まれたのか‥という謎である。つまり、サラの父親は別にいるのだ。映画はそれをサラ自身が解き明かしていく、という流れで進んでいく。
今作は非常に私的な映画だと思う。サラ・ポーリーを知っている人なら面白く見れるだろうが、彼女を知らない人にはどこまで興味を持てるかわからない。関心のない人にとっては退屈する映画かもしれない。
ただ、最後まで見ていれば分かるのだが、この映画はそこを主題にしているわけではない。確かに父親探しは全体を貫通する大きな題目であるが、それはあくまでテーマを成立させるための”素材”に過ぎない。
ネタバレを避けるために伏せて書くが、この映画が本当に伝えたいことは、ずばりドキュメンタリー映画という概念に対する大胆な”挑戦”である。ドキュメンタリー映画における真実とは何なのか?という問いかけである。
我々はドキュメンタリーというと、全てが真実に彩られた物と勝手に決めつけてしまいがちである。しかし、映画には編集というものがある。どこを切ってどこを繋げるかで、出来上がるものは全然違う物になってしまう。作り手の恣意(編集)が入ることで真実は歪曲されて伝えられてしまうのだ。
実際、ここに描かれていることが全て本物だと思って見ていた観客は、終盤の”ある場面で”面食らうだろう。本作がサラ自身の編集によって導き出した一種の”創作物”だったことに気付かされるだろう。
本作を見ると、ドキュメンタリー映画をどこまで信じて見ればいいのか分からなくなってしまう。正に、この”不信”をサラは本作を通して問いかけたかったのではないだろうか。
サラ・ポーリーは中々鋭い観察眼を持った作家だと思った。今後も監督としてどんな作品を撮っていくのか益々楽しみになってきた。