D・アルジェントの監督デビュー作。
「歓びの毒牙(きば)」(1969伊西独)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 休暇でイタリアへやってきた作家のサムは、ある晩、画廊で男女が格闘する光景を目撃する。女は刺され男は逃走した。一部始終を目撃していたサムは重要参考人として警察から取り調べを受ける。実は、同じようにブロンドの女性ばかりを狙った連続殺人事件が横行していたのだ。しかし、犯人の顔を見ていないサムにはどうすることも出来なかった。そんなある日、サムは何者かに命を狙われる。
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(レビュー) ホラー映画界の巨匠D・アルジェント監督によるサイコ・スリラー作品。ある作家が連続殺人事件に巻き込まれていく様をスリリングに描いた氏の処女作である。
独特のスタイリッシュな映像演出はまだ控えめであるが、その萌芽が見られるのは興味深い。
特に、序盤の画廊を舞台にした犯行シーンには引き込まれた。画廊は全面ガラス張りで表から中が全て見える状況になっている。サムは通りから画廊の中で格闘する男女の姿を目撃して、襲われている女性を助けようとするのだが、ガラスのドアは二重になっていてドアとドアの間に挟まり室内に入ることが出来ない。助けようとしても助けられない。この”もどかしい”シチュエーションが秀逸である。白を基調とした色彩トーンや、ほとんど無音に近い静寂さもこのシーンを不気味に盛り上げている。
また、中盤の追跡劇は、イタリアの下町を舞台に縦横無尽に繰り広げられ、ロケーションの幅も相まって面白く見れた。セリフを排して映像のみで見せきった演出力にも唸らされる。
このように幾つかのシーンでは、アルジェントらしい技巧的演出が見られ、ファンとしては嬉しい限りである。
キャラクターが曲者ぞろいなのも魅力的だった。
”あばよ”が口癖の囚人や、黄色いジャケットを羽織った暗殺者、オカマの古物商、一癖も二癖もある連中が登場してきて随所にユーモラスなトーンを作り出している。
事件のオチも、なるほどと思える物だった。いわゆる今回の事件はトラウマが元凶になっている。この後、アルジェントはトラウマをモティーフにした作品を何本か撮ることになるが、その原点がすでにここで見られたのは興味深かった。
ただ、確かに”こういう事”で”こういう事件”が起こったというのは分かるのだが、いかんせん説得力という点では今一つである。いくらトラウマを抱えているとはいえ、犯行に至る動機づけとしてはやや弱い。少し強引というか、リアリティが乏しいという感じを受けてしまった。理屈ではなく力技(映像)で持って行った所にアルジェントの手腕は認められるが、映画を見終わった後には今一つ釈然としない思いも残った。