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蔵の中

淫靡で幻想的な愛憎奇談。
蔵の中 [DVD]蔵の中 [DVD]
(2008/03/28)
山中康仁、小林加奈枝 他

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「蔵の中」(1981日)hoshi2.gif
ジャンルサスペンス・ジャンルロマンス
(あらすじ)
 小さな出版社の編集長・磯貝の元に一人の青年が持ち込みにやってくる。その内容は磯貝を戦慄させた----主人公の青年・笛二は蔵の中に閉じ込められた病弱な姉・小雪のために献身的な介護をしていた。やがて二人は禁断の愛で結ばれる。笛二は罪の意識を感じながらも、その関係を中々断ち切ることが出来なかった。そんなある日、笛二は近所に住む一組のカップルの愛憎を偶然目撃する。彼らの姿に次第にのめり込んでいく笛二だったが‥。

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(レビュー)
 横溝正史の同名原作を「本陣殺人事件」(1975日)の高林陽一が監督した作品。姉弟の禁断の愛を幻想的に綴った奇談である。

 物語は、笛二が書いた小説を磯貝が読むという入れ子構造になっていて劇中劇の形で進行する。
 小説の主人公は作者自身の笛二である。彼は幼い頃から姉・小雪を慕っていて、生まれながらに病弱な彼女のために蔵の中で献身的に世話をしていく。やがて2人は禁断の愛に溺れていくのだが、これが思わぬ不幸を二人に及ぼすことになる。

 淫靡で耽美的なトーンは中々良いと思った。高林陽一の独特の美学が奏功し、映像は大変見応えがある。

 しかし、いかんせんストーリーが水っぽくて退屈してしまった。ミステリアスな導入部には期待させられたが、前半は蔵の中で姉弟のやり取りが延々と繰り広げられドラマが中々進行しない。そのため根気強く見てやらないといけない。

 正直、面白く見れるようになってくるのは中盤以降からである。小雪と関係を持ってしまった笛二が罪の意識に苛まれながら、蔵の中にあった望遠鏡で、あるカップルの逢瀬を覗き見する行為にハマっていく。放ったらかしにされた小雪はこれに嫉妬し、二人の関係に亀裂が生じてしまう。ここでドラマはようやく新たな展開に突入する。

 思うに、小雪の愛を断ち切って外のカップルの背徳的な行為に惹かれていく笛二の心理は、自慰行為という抑圧された性欲から、本物のセックス、外の世界の快楽へと移行する思春期特有の心理とも言える。その姿に成長、独立、アイデンティティーの確立が読み取れる。果たして笛二は小雪の愛から解き放たれるのかどうか?後半はそこを中心にして面白く見れた。

 更に、この映画は現実と小説の世界、二つの世界が交錯する入れ子構造のドラマとなっている。後半に入ってくると、小説に登場したカップルが現実の世界にも登場してきて、俄然面白くなってくる。この虚実入り混じったドラマはラストでどういう結末を迎えるのか?興味深く追いかけることが出来た。

 但し、映画のオチは‥と言うと、これが見る側の解釈を試すような結末となっている。小説の出来事が本当にあったことなのかどうか、迷わせるところがある。

 個人的には、この小説の世界は結局、鬱屈した笛二の、つまり性衝動を抱えた少年の妄想を具現化した世界なのだと捉えた。全てが作り物であり小説の世界は現実を反映したものではない‥と考えると、色々な点で辻褄が合う。
 確かに判明してしまえば、やっぱりそうだったのか‥というような感想になってしまうが、これが最もスッキリする解釈だろう。
 そういう意味では、本作は真剣になって謎を解き明かすようなミステリー映画ではなく、高林監督の眩惑的な”語り”に酔いしれながら見るべきアート映画なのかもしれない。

 キャストでは、磯貝役の中尾彬、磯貝の愛人役の吉行和子が夫々に安定した演技を見せていてる。
 一方で、笛二、小雪を演じた新人俳優には演技力不足を感じてしまった。前半のほぼ密室劇状態のつまらなさは、彼らの演技力不足による所が大きい。また、セリフが文語調なのも余計に演技を下手に見せてしまっている。原作に忠実にしようとしたのかもしれないが、今回はそれがかえって逆効果のように思えた。
[ 2014/09/20 00:59 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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