古典的SFの映画化、後のロメロの「ゾンビ」三部作に多大な影響を与えたとも言われている。
「人類SOS!」(1962英)
ジャンルSF・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 突然地球に大量の流星群が降り注ぎ、それを見た人は全員目が見えなくなるという異常現象が各地で起こった。そして、隕石に付着して飛来した新種の植物トリフィドが急成長を初め人間を襲いだした。目の手術で流星群を見ることが出来なかった船員ビルは、幸いにもこの難を逃れた。そして、同じく流星群を見なかったスーザンという少女に出会い、混乱する街から脱出した。一方、科学者夫婦トムとカレンは人里離れた海岸の灯台にいた。一連の事件を知った彼らはトリフィドを排除するための研究に取り掛かるのだが‥。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) SF小説の古典「トリフィド時代」を映画化した作品。
尚、今作は後のロメロ版ゾンビに多大な影響を与えたとも言われている。荒廃したロンドンを盲人達が徘徊する光景、囚人たちが盲人の館を襲撃するシーン、大量のトリフィドがバリケードを突き破って籠城するビルたちを襲うシーンなど、確かにロメロの初期「ゾンビ」シリーズに出てきたシーンを想起させる。そういう意味では、色々な発見があって面白く見れる作品だった。
ただ、映画自体の出来はと言うと、これがさほど優れているわけではない。
第一、ストーリーが散漫でサスペンスとしての盛り上がりに欠ける。一応、メインのストーリーはビル達のサバイバルとなっているが、今作にはそれとは別にもう一つのドラマが存在する。科学者夫婦がトリフィドと戦いながら、その根絶方法を探っていくという物語である。この二つは最後まで関連することはない。これでは映画は中々盛り上がらない。
特撮もお粗末なものである。トリフィドのデザインを極力薄暗い画面で誤魔化してはいるが、日の下に出るとどうしても作り物臭さが目立ってしまう。時代を考えればこのあたりは仕方がないのかもしれないが、もう少し工夫が欲しい。
そして、今作は原作と大きな違いがある。原作は未読なのだが、後で調べてみると設定面でかなりの違いがあることが分かった。
この物語には、科学的進歩に対する警鐘が込められているように思う。映画を観ていると分かるが、そのあたりのメッセージはそこかしこに見て取れう。しかし、映画よりも原作の方が、より強いアイロニーが込められているということだ。
原作が発表されたのは1951年。当時は東西冷戦の真っ只中だった。流星群が何だったのかは映画の中では詳し説明されていないが、原作ではそのあたりについて詳しく触れられているそうである。人工衛星などの何らかの兵器だったのではないか‥という憶測が記されているのだ。つまり、原作の流星群の正体には、当時の化学兵器推進の世界情勢に対する痛烈なアイロニーが込められていたのである。
また、これも後で調べて分かったのが、映画では宇宙からやってきた外来種という設定になっていたトリフィドは、原作では食糧不足を解決するために栽培・研究された人工植物であることが示唆されている。食用植物に人間が襲われるという構図は、”自然”の”文明”に対する復讐以外の何物でもないだろう。これも実に皮肉的な話である。
このように原作には様々な風刺や皮肉が込められており、それは時代の流れと共に風化することなく今もって読者を惹きつけて離さない大きな魅力となっている。しかし、この映画はそこを尽く外してしまっているのが実に勿体ない。
尚、映像的な見応えは幾つかある。
特に、パニックに陥る駅のシーンは中々頑張って作られていると思った。
また、閑散としたロンドンの町を捉えたディストピア的景観は、「28日後…」(2002英)の誰もいないロンドンのシーンに影響を与えているかもしれない。この映像にも引き込まれた。
更に、クライマックスの大量のトリフィドの進軍。これもミニチュアを使って巧みに撮られている。夜のシーンなので粗が隠せているのが奏功している。