SF映画の古典。原作者H・G・ウェルズが参加したことで見事な世界観が構築されている。
「来るべき世界」(1936英)
ジャンルSF・ジャンル特撮・ジャンル古典
(あらすじ) 1940年のクリスマス、平和な街エブリタウンでは、人々の間で戦争に対する不安が広まっていた。そして、それは現実のものとなる。隣国の攻撃が始まったのだ。それから20年後、まだ戦争は続いていた。人類は高度な文明を失い、原始的な生活に戻っていた。更に、”彷徨い病”という奇病が流行し人口も減少の一途を辿っていた。エブリタウンに住む技師ゴードンは、独裁者ルドルフの命令で飛行機の開発を任されていた。そこに謎の飛行機が飛来してくる。パイロットのキャンバルは、高度な文明を持った国からの使者だった。彼はルドルフに、これ以上無益な戦争を止めるよう申し入れるのだが‥。
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(レビュー) SF作家H・G・ウェルズの古典的名著を映像化した作品。
今作は、ウェルズ本人が脚本に参加していることもあり、古い映画ながら世界観の表現については、かなり完成度が高いものがある。確かに現代のCGに比べればチープであるが、当時の最先端技術を用いた特撮は中々味わいがある。
また、製作当時ドイツではヒトラーが頭角を現していた頃で、欧州全土に再び戦争の機運が出始めていた頃である。本作が製作された直後、実際に第二次世界大戦は勃発しており、それを予見したような今回のストーリーは、SFでありながら社会性を巧みに忍ばせた”風刺”として面白く見ることが出来た。
ストーリーは約100年に渡る大河ドラマとなっている。登場人物が整理しきれていない、前半がダイジェスト風で粗っぽいといった欠点はあるが、戦争の歴史を歩む人類の業、それを救うのは科学であるというメッセージには深い感銘を受けた。特に、かすかな希望を灯したラストが感慨深い。戦争によって一旦は原始時代に戻ってしまった人類が、高度な科学文明を再興していくという所に、ウェルズのユートピア思想が確認できる。
尚、様々なエピソードが出てくるが、個人的に最も印象に残ったシーンは撃墜されたパイロットの死を描くシーンだった。敵の兵士が助けに駆け寄ってくるのだが、辺り一面は毒ガスが蔓延しパイロットは死を覚悟する。そこに何故か少女がやってくる。これには突っ込みを入れたくなったが、瀕死のパイロットは少女を救うために自分のガスマスクを彼女に渡すのだ。敵兵士は何も言わず自分の銃を置いて少女を連れて去っていく。その銃はガスで苦しまずに死ぬための物である。全体のドラマからすれば大した重要なエピソードではないのだが、自分にとっては胸に迫る感動があった。
画面に登場する武器や都市のデザインも秀逸である。
例えば、スマートな流線型をした戦車などは、少し時代を先取りしすぎた感じもするが、その洗練されたデザインには魅了される。また、中盤で登場するジャイロ型の飛行機、爆撃機のフォルムは今見ても全然古びていない。何となくだが、宮崎駿はこれを自信の作品の参考にしているのではないだろうか‥。ふとそんなことを思った。
更には、終盤に登場する地下都市の景観。SF映画としては、これより以前に「メトロポリス」(1926独)という傑作があったが、それに似たスタイリッシュで機能美に溢れたデザインが横溢し、正しく人類が夢見た”未来に対する憧憬”が具現化されている。今となっては特段珍しくもないが、この時代にこれを映像として再現したこと自体が素晴らしい。
また、この地下都市とは対照的に荒涼としたエヴリタウンの風景も中々味がある。こちらは実際にオープンセットが組み立てられており、戦火で焼かれたスラム街のような景観となっている。土埃が舞う終末観に「マッドマックス2」(1981豪)を連想してしまった。