fc2ブログ










哀しみのベラドンナ

凝りに凝った映像は一見の価値あり。もはやアートの領域。
哀しみのベラドンナ [DVD]哀しみのベラドンナ [DVD]
(2006/03/01)
長山藍子、中山千夏 他

商品詳細を見る

「哀しみのベラドンナ」(1973日)星5
ジャンルアニメ・ジャンルロマンス・ジャンルファンタジー
(あらすじ)
 中世のフランス。村で一番の美女ジャンヌは、農夫のジャンと幸せな結婚式を挙げた。ところが、領主の元へ貢物を献上しに行った時にジャンヌは慰み者にされてしまう。幸せから一転、絶望の淵に立たされるジャンヌ。ある晩、彼女は不思議な生き物に出会う。それは悪魔の化身だった。ジャンヌはその化身と契りを交わし魔力的な力を手に入れる。そして、村の人々の心を掌握していった。一方、夫のジャンは税金の取り立て屋として成功していた。しかし、戦争が始まると財政難に陥り、その責任を取って領主に左手を切り落とされてしまう。

ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!

FC2ブログランキング
にほんブログ村 映画ブログへ人気ブログランキングへ

(レビュー)
 虫プロが製作した大人のためのアニメ”アニメラマ”の第3弾。
 第1弾と第2弾は手塚治虫本人が製作に携わっていたが、今回は一切タッチしていない。そのせいか随分とこれまでとは異なるトーンになっている。第2作の「クレオパトラ」(1970日)は未見なので比較は出来ないが、少なくとも第1作の「千夜一夜物語」(1969日)よりキャラクターは劇画タッチになっている。また、エロティックな表現もより大胆になっていて、アニメラマのコンセプトを推し進めた完全に大人向けなアニメとなっている。
 尚、原作はフランスの歴史家ジュール・ミシュレの小説「魔女」である。

 さて、まず何と言っても、今作の最大の見所は映像となろう。いわゆる一般的なアニメの常識を覆すような実験的な技法が次から次へと出てきて驚かされる。

 今作は基本的には静止画が多く、ドラマ背景や展開を紹介する部分では絵巻物語よろしくパンニングで綴られている。この静止画がまるで水彩画のような淡い絵で非常に美しい。見事なまでにアート志向である。

 その一方で、ジャンヌの心象や、ここぞという見せ所になると、滑らかな動きで表現された、いわゆる既存のアニメ表現になる。これもクオリティの高い動画で手抜き感がまったく感じられない。
 例えば、悲しみにくれるジャンヌを鏡の中に延々と映すカット、ベッドの中で悪魔の化身に身を委ねるカット。これなどはシンプルな描線と色彩で描かれているが、1カット1シーンという長回し故、非常に印象に残るカットだった。
 更に、悪魔の首領と交わる後半のシーンになると、今度はジャンヌの肉体が奇怪なまでに変容し、ほとんどドラッグ・ムービーのようなサイケデリックな映像に切り替わる。アニメーションでしか表現できないようなイメージの世界が広がり、これも印象に残った。
 不気味に襲い来る黒死病が人間と町を呑み込んでいくシーンも素晴らしい。文字通り黒の波で画面が塗り固められていく毒々しい表現はダイナミック且つ悪夢的である。見る人によってはトラウマ的な恐ろしさを感じるだろう。

 更に、圧巻は後半の宴のシーンである。ナンセンス、エログロ、スカトロジー、何でもありの狂騒に頭がクラクラしてしまった。男のペニスが木やキリンの首になってからみ合ったり、女が股から魚を生んだり、何だか凄いことになっている。

 一方、ストーリーはというと、こちらは存外普通のメロドラマである。映像ほどの奇抜さは無く、特に難解な所もない。ヒロインの名前からも分かる通り、これは「裁かるゝジャンヌ」(1928仏)と同じドラマと言える。魔女として火あぶりの刑にされたジャンヌダルクの半生を、ロマンスとして味付けしたのが今作である。しかして、ラストも予想通りの結末となるのだが、彼女の心痛は見ててよく伝わってきた。また、階級社会の残酷さ、人間の欲望の醜さといったメッセージもとくと理解できた。

 このように中々ハードコアな作品である。ここまでエロとバイオレンスを倒錯的フェティズムの中に封入したアニメーションはそうそうないだろう。しかも、ただ悪趣味で猥雑なだけではない。映像のセンスは極めてアーティスティックで、動画のクオリティも高い。今から40年も前に作られたアニメとは到底思えないくらい先鋭的で、今見ても驚きと新鮮さに溢れている。確かに演出がメロウすぎるという欠点はあるが、日本アニメ界に残る傑作と言えるのではないだろうか。

 尚、監督はアニメラマの第1弾から続投の山本暎一である。作画監督は第1弾でも原画を務めていた杉井ギサブローが担当している。他に、林静一、ウノ・カマキリといったイラストレーターがゲスト参加している。

 キャストはジャンヌ役を長山藍子、悪魔役を仲代達也が演じている。夫々に映像の雰囲気に合った演技をしていると思った。特に、エロティックな場面における長山藍子の艶っぽい声は、映像に一層の淫靡さを与えていて中々良かった。
[ 2014/10/12 01:45 ] ジャンルアニメ | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://arino2.blog31.fc2.com/tb.php/1325-3d53fa68