人気劇画の実写映画化。
「子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる」(1972日)
ジャンルアクション
(あらすじ) かつて徳川幕府の元で公儀介錯人をしていた拝一刀は、柳生一族の陰謀によって破滅の道へ追い込まれ、各地を流れ歩く浪人に成り果てた。「子を貸し腕貸しつかまつる」の旗を掲げて、唯一の家族である幼子・大五郎を乳母車に乗せて旅をしていた。ある日、彼は小山田藩江戸家老・市毛から暗殺の依頼を受けるのだが‥。
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(レビュー) 子連れの浪人・拝一刀の活躍を描いた人気劇画の映画化。
勝新太郎に「座頭市」シリーズがあれば、兄・若山富三郎にはこの「子連れ狼」シリーズがある。向こうは大映、こちらは東宝。配給会社の違いはあるが、どちらも勝新太郎が製作に携わっている。勧善懲悪、痛快無比な時代劇という点では共通している。
また、監督は座頭市シリーズ第1作
「座頭市物語」(1962日)でメガホンを取った三隅研二が務めている。同じ監督ということで、作品のテイストも劇画タッチな作風が貫かれている。ただ、こちらは原作がコミックということもあり、やや現実離れした演出が見られる。
更に、原作者である小池一雄(小池一夫)が脚本を書いていることもあり、原作の世界観に沿った作りが徹底されている。そのせいか、「座頭市」シリーズよりも破天荒な剣技や過剰なスプラッタ描写なども出てくる。このあたりは、リアリズムを好む者にとってはマイナス要因になるかもしれない。
例えば、首や手足が飛んだり、噴水のように血が噴き出したり、いかにもマンガ的な表現が見られる。劇画の実写化という割り切りが出来ていればさほど気にならないが、見ようによっては軽薄に写りかねない。
ただ、この過激さは良い意味で勝新太郎の「座頭市」と異なるケレンミに繋がっていて、今シリーズのセールス・ポイントにもなっている。個人的には楽しく見れた。
特に、一刀と露口茂演じる用心棒が対決するシーンには見入ってしまった。夕日をバックに対峙する二人。決着は一瞬でつく。茜色の空に用心棒の首が飛び、残された胴体のシルエットから大量の血が噴き出して倒れる。残酷ではあるが、どこか様式美を感じさせる映像は、いかにも劇画的で印象に残った。
キャストでは、やはり一刀を演じた若山富三郎の魅力。これに尽きる。演技云々と言うより、その圧倒的な存在感に目が釘付けになった。
一方、敵役・柳生のリーダーを演じた伊藤雄之助は持ち前の異様な風貌を活かしながら独特の怪演を披露しているが、いくら劇画タッチとはいえこれは作り過ぎである。少しコミカルに写ってしまう場面があった。
小池一雄の脚本は、一刀のバックストーリーを流麗に紹介した前半に上手さを感じる。現在と過去を交錯させながら、彼が柳生一族と対立することになった経緯、大五郎と一緒に旅をすることになった経緯が巧みに紹介されている。
但し、幾つか強引な個所もあった。一つは、大五郎の前に刀と手毬を置いてどちらかを選べ‥と言うクダリ。修羅の道を歩むか、平穏な暮らしを歩むか。一刀はその選択を大五郎自身に選ばせようとするのだ。しかし、これはいくらなんでもマンガ的過ぎる。まだ物心もつかない赤子に選べと言っても分かる筈がない。このシーンには苦笑してしまった。
また、一刀と本作の紅一点・お仙との濡れ場も唐突な感じを受けた。ヤクザに捕まった一刀が、皆の見てる目の前でお仙で抱けと命令される。余りの脈絡の無さに飲んでたお茶を吹き出しそうになった。
もっとも、その後のお仙のセリフは良い。周囲にタンカを切って「命が惜しいって時に女を抱けるかい!」と言い放つ。これには痺れてしまった。
思うに、今作はこういう”見得を切り方”を如何に楽しむか。そこが重要なポイントになってくると思う。映像的にもドラマ的にもかなりハッタリが効いていて、強引な箇所もあるにはあるが、ここまでエンタテインメントを追求していれば潔いというほかない。