大島渚監督最後の作品。
「御法度」(1999日)
ジャンルロマンス
(あらすじ) 幕末の京都。新選組に妖しい魅力を放つ美剣士・惣三郎と、血気盛んな青年・田代が入隊する。来て早々、惣三郎は土方の命令で御法度を破った隊士の斬首役を任された。大役を担った惣三郎に同期の田代は嫉妬する。しかし、土方には惣三郎の剣技が田代を上回っていたことを初めから見抜いていたのだ。やがて、田代は惣三郎を自分の寝床に誘い、毎晩愛し合うようになる。これが組に様々な波紋を及ぼすことになる。
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(レビュー) 新選組を舞台にしたミステリアスな愛憎ドラマ。
鬼才・大島渚監督の遺作。老いと病魔に犯されながら完成させた労作で、氏の作家としての”意地”が乗り移ったかのような美しい映像作品となっている。
耽美な色彩とライティング、クライマックスの眩惑的な光景、新選組の崩壊と自らの死をまるでダブらせたかのような寂寥感漂うラストカット。いずれも惚れ惚れさせられた。長年独特の映像美を追求してきた氏の感性が余すところなく炸裂しており、改めて大島渚の美学を見せつけられた思いである。
一方、ドラマの方も中々興味深く見ることが出来た。おそらく日本人なら誰でも知っているであろう新選組。そこで同性愛を描くというのだから、これは驚きである。今で言えばBL、二次創作的な”ネタ”ということになろうが、当時これを映画でやるというのはかなり野心的な試みだったのではないだろうか。
そして、この大胆なドラマを穿ってみれば、「新撰組」=「映画現場」と捉えられなくもない。今でこそ女流監督がたくさん出てきた邦画界であるが、かつては完全に男だけの世界だった。スタッフの中に女性がいたとしても、それはほんの一握りで、今ほど女性の進出は盛んではなかった。つまり、大島は新選組をかつての撮影現場のように捉えていたのではないだろうか。
もし、彼が本作にそのあたりの意図を込めていたとしたら、これを最後の作品としたのは実に合点がいく。つまり、新選組の崩壊は自分が慣れ親しんだ映画現場の”死”を意味し、同時に自らの作家生命の”終わり”を意味しているということになるからだ。
しかも、本作には二人の映画監督が登場してくる。一人は土方役のビートたけし、もう一人は近藤役の崔洋一。どのような経緯で彼らがキャスティングされたのかは分からないが、大島が若い才能に映画界の未来の引き継いだ‥というふうに読み取れなくもない。大島渚はこの映画を遺言のようにして撮ったのではないか。そんな風に想像できる。
演出は随分と丸くなっており、かつてのアバンギャルドさは鳴りを潜めている。コメディチックな演出を施しながら、キャスティングにも喜劇担当を揃え、娯楽テイストをかなり取り入れている。また、アクション・シーンも要所を盛り上げ、過去の作品に比べれば非常に取っつきやすい映画になっている。
逆に言えば、かつての破天荒で難解な作風が影に隠れてしまい、いわゆる商業作品になってしまった‥という一抹の寂しさも覚えた。
尚、今作の製作中に大島は脳溢血で倒れた。その後、病状が回復して撮影が始まったのだが、その健康を気遣う形でスタッフ陣に豪華なメンバーが結集している。撮影はアメリカでも活躍中だった栗田豊通、衣装はアカデミー賞受賞経験者ワダ・エミ、音楽はこれまたアカデミー賞受賞歴のある坂本龍一。錚々たる布陣である。
キャストも個性あふれる顔ぶれが揃っている。中でも、惣三郎を演じた松田龍平は、持って生まれたオーラとでも言おうか、父・優作の役者としての血を受け継いで見事に本作で映画デビューを果たしている。演技自体は未完成であるが、この存在感はずば抜けている。