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「首なし事件」にのめり込んでいく弁護士の姿を熱度高く描いたサスペンス作品。
「首」(1968日)star4.gif
ジャンルサスペンス・ジャンル社会派
(あらすじ)
 昭和18年、東京に事務所を構える弁護士・正木の元に、茨城県の炭鉱会社を経営する夫婦から、従業員・奥村の死因について調べて欲しいという依頼がくる。奥村は賭博の疑いで警察署に連行され、そのまま脳溢血で死亡した。しかし、一緒に連行された他の従業員によると、彼は署員から相当激しい暴行を受けていたらしい。奥村は殺されたのではないか‥という疑惑を抱き、正木は早速、事件の担当検事に死体の解剖を行うよう掛け合った。ところが、検事はその申し出を拒み、死体解剖を内々に済ませて埋葬してしまった。正木は疑惑を深めながら本格的に調査に乗り出していく。

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(レビュー)
 熱血弁護士が警察の暴行死事件を暴いていくサスペンス作品。

 物語の時代背景が戦時下と言うこともあり、本作には当時の官憲に対する痛烈が批判が込められている。実に重厚な告発映画である。終始緊迫感を貫き通した作りも見事で、全体的に中々の力作感がある。
 ただ、惜しむらくは、戦争の空気感がそれほど画面に表れていない事である。そこに若干の作りの甘さが認められた。しかし、見れば分かるが、本作は決して予算がそれほどかかっている映画ではない。当時としては珍しいモノクロ・スタンダードである。そのあたりの事情を踏まえると、このあたりの作りの甘さはやむを得ないと言えるかもしれない。

 原作は今作の主人公弁護士・正木ひろしが描いたノンフィクション小説「裁判官」である。俗に「首なし事件」と言われているそうだが、今回の警察による不祥事は彼の正義感を相当奮い立たせたのだろう。実際に映画で描かれている正木の追及は、狂気的とも言えるほどに熱を帯びている。

 正木役を演じたのは小林桂樹。少々大仰な部分もあるが、不正を憎み、真実一路を目指す姿には説得力が感じられた。「死骸が腐りかけてる!早く首を切らないと!」と繰り返し発する辺りは、常軌を逸した世界に入ってしまったかのようだった。こういう役は正に敵役である。

 尚、劇中にも出てくるが、正木は「近きより」という個人雑誌を発行していた。この雑誌は、世の不正や悪を徹底的に糾弾する雑誌で、特に権力に対する批判については、かなり過激な物もあった。当時の東條内閣を批判するような記事も掲載していたらしい。普通に考えれば危険思想として排除されてもおかしくない。しかし、彼はどんなに他人から文句を付けられても、自分の意見を決して曲げなかった。そういう人間だから、今回のような事件にも恐れず立ち向かったのだろう。はっきり言って、彼は机の上で六法全書と睨めっこするようなタイプの弁護士ではない。どんな難敵にも立ち向かっていく勇猛果敢な”行動する”弁護士である。

 脚本・橋本忍の軽快な構成力も見事である。映画は、事件の被害者である奥村が取調官に殴打されるというショッキングな光景から始まる。自分はこの画面で一気に映画の中に引き込まれた。クライマックスの墓堀りシーン以降も手に汗握る展開で良かった。ある種、娯楽然としたベタな展開とも言えるかもしれないが、このくらいのサービス精神はあっても良いと思う。個人的にはS・ペキンパー監督の「ガルシアの首」(1974米)を連想した。

 ただ、一点だけどうしても不自然に感じた部分がある。終盤で正木が、今回の事件を戦争に結び付けて軍官憲を批判しているが、少々飛躍しすぎな論調と思えなくもない。このあたりはもう少し繊細さが欲しい。丁寧に論じればもっとすんなりと呑み込めただろう。

 橋本忍以下、他の主要スタッフもほぼ黒澤組で固められている。
 監督の森谷司郎は黒澤の「用心棒」(1961日)や「赤ひげ」(1965日)で監督助手を務めていた新鋭であり、緊密な演出に師匠譲りの才気が感じられた。特に、終盤の列車のシーンのスリリングさと言ったら堪らない。見ていてどうやって切り抜けるのか、ハラハラドキドキさせられた。
 撮影の中井朝一も黒澤作品の常連である。シャープな陰影が画面に張りつめた緊張感をもたらしている。硬質な画面作りが見事だった。
[ 2014/10/29 01:02 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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