莫大な遺産を巡るサスペンス。
「からみ合い」(1962日)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 大企業の社長・専造は胃癌で余命3か月を宣告をされる。遺産を後継者に残そうとするが、彼には3人の隠し子がいた。彼らが今どこにいるのかは分からない。そこで専造は顧問弁護士に彼らを探し出してくれと相談する。妻の里枝は当然これが気に入らなく、秘書課長・藤井と結託して全遺産を我が物にしようとした。また、顧問弁護士古川も自分のキャリアアップを目論んで動き出した。更に、そこに専造の専属秘書・やす子も巻き込まれていく。こうして莫大な遺産を巡って様々な人間が暗躍していくようになる。
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(レビュー) 莫大な遺産を巡って骨苦肉争いが繰り広げられるサスペンス映画。
いかにも俗っぽい内容であるが、監督小林正樹の堅実な手腕が相変わらず冴えていて最後までダレることなく一気に見れた。ただ、どちらかと言うと今回はクールでモダンな映像演出が横溢し、彼本来の重厚さは余り感じられない。2時間ドラマのような歯切れの良さが、良くも悪くも映画の見易さ、つまりこれまでの重々しいイメージだった小林作品のカラーを払拭している。それは同年に製作された傑作時代劇
「切腹」(1962日)、前年に堂々の完結を迎えた全3部作に渡る戦争巨編
「人間の條件」(1959~1961日)との比較からも明確である。
音楽は小林作品ではお馴染みの武満徹が担当している。こちらも小林の演出に合せるように、今回は随分とモダンなBGMになっている。作品自体が時代劇ではなく現代劇ということも関係しているのだろう。両氏共に今回は新機軸を見せようとしている感じがした。
このように重苦しさが余り感じられない演出、音楽ということもあり、全体の鑑賞感がやや薄みである。「切腹」や「人間の條件」とガラリとスタイルを変えた所に新味はあるが、正直今一つ物足りないという感想を持った。
また、ストーリーも予測の範囲内で収まっているし、これは原作がそうなのか、あるいは脚色の問題なのか、サスペンスとしてはそれほど意外性が無いまま終わってしまっている。よくある話と言えばそれまでである。また、そこに人間の欲望や嫉妬、情念といった負の感情が強烈に落し込まれているかというと、そうでもない。シナリオが若干上品になり過ぎてる感じがした。
主演のすみ子を演じた岸恵子のクールな佇まいは、非情な女を見事に体現していて悪くはないが、ここまで一辺倒な演技が続いてしまうと何だか超然とした存在に見えてしまう。女性の二面性をもっと大胆に忍ばせても良かったのではないだろうか。