何とも例えようもない不思議な映画。
「ブンミおじさんの森」(2010英タイ仏独スペイン)
ジャンルファンタジー
(あらすじ) タイ北部の小さな村に腎臓の病気を患うブンミが住んでいた。彼の見舞いに南部の都会から義妹のジェンと甥のトンがやってくる。その夜、彼らは楽しい夕食をした。ところが、そこに死んだはずのブンミの妻フエイと、行方不明になっていた息子ブンソンが猿の姿になって現れた。彼らはブンミを心配して森からやってきたと言うが‥。
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(レビュー) 余命わずかな男の周囲に起こる様々な出来事をファンタジックに綴った作品。
どうにも評価に窮する作品である。基本的には幽霊や森の精霊が登場するファンタジー映画なのだが、作品が訴えたいテーマはタイという国の歴史、政治、あるいは農村で暮らす人々の佇まいといった”現実”である。非現実的な事象の中に社会的・歴史的テーマを描こうとした試みはユニークだと思うが、実際に見てみると余りにもファンタジー色が強すぎて今一つピンと来なかった。
ドラマは、ブンミの亡き妻フエイと、行方知れずになっていた息子ブンソンが変わり果てた姿で戻ってくる所から始まる。ここだけを見ると家族の絆を巡るドラマのように思うのだが、ストーリーはそう安易に進まない。
ブンソンが猿になった理由はぶっ飛んでいるし、古代の王女が出てきて森の中で妖艶な体験をするし、軍人が突然出てきて猿を捕らえたり、不思議な出来事が次々と登場してくる。これらが何を意味するかは、タイという国の歴史、政治をある程度知っていれば理解できるだろう。しかし、予備知識なしで見たら、何のことかさっぱり分からないと思う。全てメタファーとして描かれているのだ。
確かに、夫々のシーンは一つの独立した”見世物”として捉えれば中々面白く見れる。ただ、全体のドラマとしての芯が無く、映画の作りとしてはいささか乱雑である。しかも、ファンタジーの器に無理やり現実的なテーマをはめ込んでしまったために、どうにも掴みどころのない映画になってしまった。
森の風景は美しく撮られていて見応えがあった。特に、王女が滝つぼで体験する不思議なシーンは美しかった。また、後半の鍾乳洞のシーンには独特の幽玄さも感じられた。
ラストは賛否あるかもしれない。ジェンとトンが何故ああいうことになってしまったのか、それが何を意味しているのかは、おそらく多くの人にとって理解できないだろう。自分も見た時には狐につままれたような感じになってしまった。
しかし、後になって色々と振り返ってみると、非常にミステリアスで秀逸な結末だと思った。おそらく、ブンミと一緒に森の中へ入っていったジェンとトンは、あの神秘の体験に触れることで自らも現実とファンタジーに分離してしまったのではないだろうか。だからあのようなシュールなラストになったのだと思う。
このように、本作は見た人によって解釈が色々と分かれそうな映画である。あれこれと想像しながら何回も観る。そうすることが本作の醍醐味のように思う。