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終の信託

恋愛ドラマと社会的な問題を上手く掛け合わせた作品。
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(2013/04/19)
草刈民代、役所広司 他

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「終の信託」(2012日)星3
ジャンルロマンス・ジャンル社会派
(あらすじ)
 呼吸器内科の折井医師は、重度の喘息患者・江木の担当医師だった。幸い病状は次第に回復し退院の日にちが決まった。その頃、折井は不倫関係にあった同僚・高井に捨てられたことで自殺未遂を起こす。落ち込む折井を江木は慰め、次第に二人は固い絆で結ばれていくようになる。

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(レビュー)
 女性医師と患者の交流を描きながら、尊厳死の是非について問うた骨太な社会派恋愛ドラマ。同名小説の映画化である。

 監督は周防正行、主演はその妻である草刈民子と役所広司が務めている。この布陣はアメリカでもリメイクされた同監督作「Shall we ダンス?」と同じである。ただし、作品の傾向はガラリと異なる。「Shall we ダンス?」は明朗なエンターテインメント作品だったが、本作はシリアスなドラマである。

 物語は折井と江木の関係を綴る前半、折井が検察の取り調べを受ける後半。この二つで構成されている。

 前半は、医師と患者、孤独な者同士が支え合いながら親密になっていくラブストーリーになっている。丁寧に描かれていて大変面白く見れた。特に、折井のキャラクターが興味深い。

 彼女は聡明な女性医師で、患者から熱い信頼を受け、周りの医師からも評価されている。いわゆる出来たエリートである。しかし、人間としては未熟な女性だったのではないか‥そんなふうに思った。
 まず、彼女は同僚の医師と不倫関係に及んでいる。そして、相手に捨てられると今度は自殺未遂を起こしている。普通であれば、こんなことをすれば自身のキャリアに傷がつくし、周囲に与えるショックも相当なものだと考えるだろう。しかし、彼女は考えなしに自暴自棄な行動に出てしまった。医師としての自覚も無ければ、一人の人間としても酷く個人主義的で自分勝手な女性に思えた。それは裏返せば、とても脆く壊れやすい女性だという言い方も出来る。表と裏の顔のギャップ。これが面白い。
 そして、そんな彼女だからこそ、自分の担当患者である江木との淡い恋情に慰められてしまったのだろう。これには説得力が感じられた。

 後半から時制が飛び、江木殺害の被疑者となった折井が検察の取調べを受ける密室劇となっている。観客は、前半で二人の関係を見ているので、あんなに愛していたのにどうしてこんな事になってしまったのか?折井の已むに已まれぬ感情を知り尽くしたうえで、ここからの展開を見ることになる。そこでの彼女の葛藤はこれまた面白く見れた。

 そして、ここには尊厳死の問題が絡んでくる。尊厳死については賛否が大きく分かれる問題で、今でも大きな議論となっている。
 ただ、今回のケースだけを考えてみると、やはり折井に色々と落ち度があるように思った。まず、第一に折井は江木の家族へ十分に情報を提示していない。また、院内でのコミュニケーションの怠慢もあったし、治療に際する投薬の仕方にも明らかなミスがあった。これはどう弁明しても言い逃れできない事実であろう。したがって、今回のケースでは、折井の起訴も止む無しという風に思えた。

 ただ、その一方で、彼女だけに責任があったのか?という疑問も抱いた。今回の件は、江木自身にも問題があったのではないだろうか。そもそも、彼が周囲に自分の意志をはっきっりと示していれば、ここまで問題がもつれることにはならなかったと思う。実は、江木自身も折井同様、周囲から孤立した人間だった。彼がもっと家族に自分の意志を伝えていれば‥と悔やまれる。

 この後半は、折井と検察官の緊張感あふれるダイローグ劇となっている。折井演じる草刈民代の熱演は大いに見応えがあった。元々バレリーナだった彼女は、本作を機にバレエを引退して女優一本で活動することになった。その意気込みはこの熱演から存分に伝わってきた。

 また、この後半は周防監督の前作「それでもボクはやってない」(2007日)で見られたような、検察の取り調べの問題も暗に示されている。被疑者を精神的に追い詰めながら疲弊させ、最終的に罪を犯したことを認めさせてしまう強引なやり方。それが今回の映画にも見られた。前作から引き続いて周防監督が訴えたかったテーマだろう。

 しかし、確かにこの問題意識の高さは素晴らしいことだと思うが、1本の作品として見た場合、後半でそれが突出してしまったことによって尊厳死という本来のテーマが影に隠れてしまった印象を受ける。あるいは、監督が草刈の熱演を前面に押し出すべく執拗に取り調べのシーンをクローズアップしてしまったような節も伺える。メインのテーマは孤独な男女の悲恋であり、その顛末として尊厳死という問題があるのだと思う。それが後半の作りによって、ぼやけてしまった感じを受けた。

 尚、最も印象に残ったシーンは、中盤の江木の安楽死のシーンである。生と死の境界を残酷に、そして並々ならぬ緊張感と迫力で切り取った所に見応えを感じた。江木を演じた役所広司の熱演も見事だった。
[ 2014/11/30 00:41 ] ジャンルロマンス | TB(0) | CM(0)

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