ちょっと古めかしいロマコメだが見てて楽しい。
「夜を楽しく」(1959米)
ジャンルロマンス・ジャンルコメディ
(あらすじ) 室内装飾家ジャン・モローは、売れっ子作曲家ブラッド・アレンの電話と共同回線だった。プレイボーイのブラッドは毎日のように口説きの電話に忙しく、ジャンは全然電話が使えなかった。堪りかねたジャンはブラッドに電話を空けることを要求する。ブラッドも渋々この提案を受け入れた。その後、ジャンは顧客のパーティーに招かれ、その帰りにブラッドに遭遇する。彼女にはブラッドの正体が分からないまま彼と付き合うことになる。
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(レビュー) 共同電話回線を巡って喧嘩をしている男女が、素性を隠して交際する"成り済まし″コメディ。
お堅いジャンとプレイボーイなブラッド。二人は共同電話のことで犬猿の仲である。それがある晩、偶然出会う。ブラッドはジャン・モローという名前と声を聞いてすぐに「あのジャンか‥」とピンとくるのだが、ジャンの方は相手がブラッドだと分からない。プレイボーイのブラッドは、「こいつは面白い」と素性を隠して紳士的な振る舞いで彼女に近づき二人の交際が始まる。
見ている観客には全てが分かっているが、劇中のジャンにはまったく分からない‥という所がこのコメディの肝である。いわゆる”成り済まし”コメディの常道をいく展開でドラマは進行し、特別斬新というわけではないが安心して見ることが出来る作品である。
ただ、ブラッドの正体を知らないでこの恋にのめり込んでいくジャンにとっては、何とも気の毒な話でもある。男性との恋愛経験が少なく、仕事一筋に邁進してきた彼女にとって、ブラッドとの恋は、言わば最初で最後の一大ロマンスである。その相手があの憎きプレイボーイだと知れば、ジャンはきっと酷いショックを受けるだろう。それを想像してしまうと、見てて居たたまれない気持ちになってしまう。
しかし、この映画はそのあたりの”見顕し”も実に巧みに作られていて、嫌味な感じはしない。映画は終盤から以外にも”ピュア”な展開に突入していき、気持ち良くまとめられている。軽妙洒脱な会話と演出も加わり、全体的には中々良く出来たロマコメ作品となっている。
コメディ部分としては、ブラッドの部屋のギミック、産婦人科医院の勘違い、顧客の息子トニーの"ミニカー”等が、個人的ツボだった。
また、今作にはジャンに惚れてるエリートビジネスマンでジョナサンという男が登場してくる。実は、彼はブラッドの親友で、彼とジャンが交際していることを知らない。ジョナサンがブラッドの部屋に遊びに来た時にジャンに電話をするシーンがあるが、このシチュエーションは傑作だった。どうしてかと言うと、彼がいくら電話をかけても通じないからである。当たり前である。共同電話なのだから‥。知らないのは当の本人だけ‥という所が最高に笑えた。
それにつけても、このブラッドという男。売れっ子作曲家というのを良いことに方々の女に自作の曲を送りつけたり、ジャンや親友のジョナサンを騙したり、ほとほと見下げ果てた男である。真面目に見てしまうと感情移入しづらいキャラである。最後は一応改心するが、その手前で何かしら痛い目に合うシーンの一つや二つは欲しかった。
ブラッドを演じるのはロック・ハドソン。生来の二枚目スターゆえ、この役には説得力が感じられた。‥が、その演技が若干鼻につくのも確かである。
一方のジャンを演じるのはドリス・デイ。女優であると同時に歌手でもある彼女は、今作でも見事な歌を披露している。ヒッチコックの「知りすぎていた男」(1956米)のシリアスな演技も見応えがあったが、やはり彼女にはこういう華のある役の方が似合う。
ジャンの使用人役のセルマ・リッターの妙演も中々のものだった。彼女は大酒のみのハイミスという役どころで、所々で笑いを振りまいている。ラストは想定内ではあったが、収まりのつくところに収まり見ていて気持ちが良い。
シナリオは軽快なテンポでまとめられている。”品の無い”骨董品、産婦人科院といった伏線も絶妙に回収されており、全体的に破綻が少ない。
また、セリフ回しも気が利いていて、「上質なワインは一口飲めばわかる」等、幾つか味わいのあるものが見つかった。
更に、今作はモノローグの使い方も上手かった。表と裏の顔のギャップは、この手の成り済ましコメディにおいては一つの醍醐味である。前半はそれをモノローグで上手く引き出していると思った。
一方、シナリオ上、幾つか気になる箇所もあった。例えば、あの探偵はいつの間に写真を撮ったのだろうか‥?また、あれだけジョンに執心していたジョナサンにしてはアッサリと彼女を諦めすぎではないだろうか‥?こうした疑問は幾つか持った。更には、ブラッドの見顕しが若干安易という気がしなくもない。このあたりは、気になる人は気になるだろう。
もっとも、こうした突っ込み所は、気楽に見れるロマコメであることを差っ引けば、ある程度は享受できるものである。多少強引でも”面白さ”を取った‥という風に考えれば、全体的には非常に楽しめる作品である。