トム・クルーズの若々しい演技が見所。
「卒業白書」(1983米)
ジャンル青春ドラマ・ジャンルサスペンス・ジャンルコメディ・ジャンルロマンス
(あらすじ) 高校生ジョエルは大学受験を控えた悩み多き青年。両親が旅行に行くことになり、思い切り羽を伸ばせると喜んだ。ところが、何故かそこにゲイの娼婦が突然訪ねてくる。それは悪友の悪戯だった。出張代をガッポリとられて散々な目に合ったが、その埋め合わせにラナという娼婦を紹介される。早速彼女に電話をかけるジョエル。そして、勉強もそっちのけで彼は見事に初体験を済ませた。しかし、翌朝目を覚ますと母親が大事にしていた高価な置物が無くなっていた。盗んだのはラナだった。ジョエルはそれを取り戻そうと彼女を探し始める。
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(レビュー) トム・クルーズが恋と進路に悩む青年を初々しく好演した青春コメディ。
背伸びしたい年頃の青年にありがちな、ある種の青臭き冒険談‥といった感じで微笑ましく見れた。
個人的には、同時代に製作された青春映画作家J・ヒューズ監督の一連の作品を思い浮かべてしまう。当時はこうした青春グラフィティ物の映画がたくさん作られ、そこそこの人気を博していた。そんなヒューズ作品の中でも一番お気に入りなのがM・プロデリックが主演した「フェリスはある朝突然に」(1986米)なのだが、本作もそれと同じ”ウブな少年”の一日を綴った”冒険談”というドラマになっている。
ただし、どちらかというと楽観的だったJ・ヒューズ作品のテイストと比べると今作は大分違う。あそこまでの爽快感は無く、むしろほろ苦いテイストで締め括られるあたり。少々ビターな青春ドラマになっている。このあたりが本作の妙味のように思う。
ただ、いきなり言うのも何なのだが、正直なところ1本の映画として見た場合、今作は決して出来の良い映画とは言い難い。第一にシーンの展開に強引さが目立つし、見てて混乱させられるような場面もある。
例えば、悪友の一人グレンがジョエルの留守中に彼の家にいる理由が分からないし、ラナのヒモが何故ジョエルの家を探し当てることが出来たのかも謎である。更に、ジョエルがラナと食事をするラスト。それまで音信不通だった彼女にどうやってコンタクトを取ることが出来たのかも謎である。こうした展開の説得力のなさは、映画の完成度を確実に落としている。
とはいえ、こうした雑な作りはあるものの、所々の映像については中々光るものがあり、そこについては見応えが感じられた。言ってしまえば当時のPV風なノリなのだが、例えばジョエルとラナの初めてのセックスシーンなどは中々魅力的に撮られている。窓が突然開いて風が入り込んで2人はその中で情熱的なセックスをする。臭いと言えば確かにそれまでだが、この臭さがケレンに満ちていて良い。また、後半の地下鉄のセックスもアーティスティックな映像感性で撮られていて魅力的だった。更に、ジョエルには妄想癖がある。それを表現した一連のシーンも眩惑的なトーンで撮られていて面白かった。
また、写真を使った”小ワザ”も中々のセンスを感じさせる。劇中にはジョエルの子供時代の写真が2度に渡ってさりげなく映し出される。現在と過去(写真)のジョエルを同一ショットで結ぶあたりは中々味のある演出に思えた。
音楽を担当するのは、ドイツのロックバンド、タンジェリン・ドリーム。スリリングな電子音がシーンに不思議な印象を与え、ジョエルの現実を幻想的に色付けしている。今作の独特なトーンを影から支える功労者と言っていいだろう。
キャストでは、やはりジョエルを演じたT・クルーズの初々しい姿が印象に残った。例えば、パンツ一丁になってレコードに合わせて歌いながら踊るシーンの若々しさといったらない。今の彼を見慣れている人にとっては驚きであろう。
尚、彼は後年、「マグノリア」(1999米)という作品でインチキ教祖を演じていたが、その時の過剰なパフォーマンスを、このシーンを見て思い出した。あるいは、
「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」(2008米)で演じた傲慢プロデューサーのダンス・シーンなんかも、これに近いものが感じられる。
これらのトムの演技に共通するのは、いわゆる理性のタガが外れた”俗物的”パフォーマンスで、「ミッション・インポッシブル」シリーズのアクション・スター然とした顔、「7月4日に生まれて」(1984米)などで見せるシリアスな演技派として顔とは違った面白さがある。このダンス・シーンから、その原型が見て取れた。若かりし頃の作品を見ていると、時々こういう発見があるから面白い。
一方のヒロイン、ラナを演じたレベッカ・デモーネイも、当時はデビュー間もない頃だったが、美しい肌を見せながら体当たりの演技を見せている。小悪魔的な魅力を振りまいてジョエルを虜にする姿がとても輝いていた。