俊英・石井裕也監督の長編デビュー作。
「剥き出しにっぽん」(2005日)
ジャンル青春ドラマ・ジャンルロマンス
(あらすじ) 太郎は高校を卒業後、何をするでもなく無為な日々を送っていた。その頃、気になる存在、元クラスメイトの洋子は近所の和菓子屋で働いていた。太郎は時々それを見に行ったが、その想いは伝わることなく悶々とする日々が続いた。そんなある日、太郎は1件の不動産情報を目にする。それは郊外の畑付きの小さな家だった。太郎は一念発起して、洋子を誘ってそこで自給自足の暮らしを始めようとする。洋子も彼に付いていくことを了承した。夢のような同棲生活が始まると喜ぶ太郎だったが‥。
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(レビュー) 日本映画界の若き才能・石井裕也監督の初の長編作品。今作は大学卒業制作作品として作られた映画であるが、2007年のぴあフィルムフェスティバルに出品され見事グランプリを受賞した作品である。
石井監督の特徴は、いわゆるオフビート・タッチなコメディにあると思うが、この処女作も例に漏れず、その特色がよく表れた映画である。最後にはシリアスな展開もあり、中々面白い作品だと思った。
登場してくる俳優たちは、いずれも無名な俳優ばかり。後の石井作品の常連で固められている。映画の舞台も寒々しい小さな町に限定されており、そういう意味ではいかにも低予算、自主製作らしい肌触りが感じられる小品となっている。身の丈に合ったドラマ選定も好印象である。
何と言っても、今作の魅力はキャスト陣の魅力。そして、彼らが演じる活き活きとしたキャラクターにあるように思う。先述したように、有名な俳優は一人も出てこないが、それがかえってこの物語を新鮮に見せている。
例えば、悶々とした欲望を抱えながら童貞をこじらせる主人公・太郎には、この年頃の青年の等身大の姿がよく出ていると思った。いかにも甘えん坊な造形もピタリとハマっていて見事である。
会社をリストラされて行き場を失った太郎の父の情けなさも味があった。一見してダメ中年なのだが、時折見せる太郎に対する優しさが抜群に良く、キャラクターに見事な奥行きを持たせている。何となく岩松了のような、ちょっととぼけた親しさも良かった。
太郎の祖父も面白キャラクターだった。年の割に性欲旺盛で太郎のエロ本を見てオナニーしようと苦闘するシーンは最高に可笑しかった。彼は太郎が家の中で唯一心を開ける存在である。
他に、太郎の高校時代の友人二人組、チンピラ風の先輩、太郎がエレベーターで遭遇する色情婆といった脇キャラも一々個性的でユニークである。
このように、登場人物に関してはどこかマンガチックであるのだが、その一方で一定のリアリティも感じられ、それが本作の独特のトーンを形成しているように思った。
石井監督の演出は基本的にはオフビートなタッチで整えられている。変にドラマチックに盛り上げることをせず、敢えて淡々と紡いで見せている。
ただ、クライマックスの太郎と洋子の衝突だけは、それまでの溜まりに溜まっていた二人の感情が一気に爆発するので衝撃的である。この時の「でっかい穴」というセリフのセンスも秀逸である。太郎の卑小さ、洋子の包容力を暗に示したものとして、何だかしみじみときてしまった。
正直な所、石井監督の演出は現在に比べれば荒削りでまだ洗練されてない。但し、創作とは変なもので、作れば作るほど完成度は増していくが、逆に初期時代にあった”味”みたないものは失われてしまうものである。おそらく石井監督も、今となっては本作のような”味”は二度と出せないであろう。完成される一歩手前の青臭さとでも言おうか‥。それが愛おしく感じられるところがこの作品の良い所だと思う。