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川の底からこんにちは

満島ひかりの妙演が良い。同監督作「ガール・スパークス」(2007日)の発展形。
川の底からこんにちは [DVD]川の底からこんにちは [DVD]
(2011/02/26)
満島ひかり、遠藤雅 他

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「川の底からこんにちは」(2009日)星3
ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ)
 上京して5年目のOL佐和子は職を転々としながら、現在は勤めている会社の上司と交際中だった。相手の男・健一はバツイチの子持ちで再婚を望んでいた。しかし、佐和子は中々踏み切れないでいた。そんなある日、田舎の叔父から連絡が入る。父が入院したので実家のしじみ工場を継いで欲しいと言われる。仕方なく実家に戻る佐和子。その直後、会社を首になった健一も一緒について来ることになった。こうして佐和子は慣れない工場経営を始めるのだが‥。

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(レビュー)
 無気力な元OLの奮闘をオフビートなタッチで綴ったヒューマン・コメディ。

 監督・脚本は若き俊英・石井裕也。2007年のPFFでグランプリを受賞して今作で商業デビューを果たした才人である。演出にまだ粗さは見つかるものの、この独特の感性はやはりこの人ならでは物がある。所々のセリフも魅力的だし、今回も終始楽しく見ることが出来た。

 物語はいたってシンプルな女性の成長ドラマになっている。
 主人公・佐和子は「しょうがないから」「所詮、中の下ですから」が口癖な平凡なOLである。上京5年目にして5つ目の職場、5人目の恋人と付き合っている。将来の目標は無く、日々漫然と暮らしている。そんな彼女が、ある日突然、父の入院で倒産寸前にある実家のしじみ工場を引き継ぐことになる。はてさてどうやって再建してくのか‥?というのがこのドラマの主幹である。工場に勤務するおばちゃんたちや恋人・健一との関係などが、時にコミカルに時にシリアスに綴られている。

 特に捻りは無いが全体がウェルメイドに作られているので、過去の石井作品よりもかなり取っつきやすい。おそらく今まで一番入り込みやすい作品だと思う。
 ただ、佐和子は少し感情移入しにくいキャラクターとなっている。対人関係は常に冷めていて、時々刺々しい言葉を吐いたりもする。そこがしんどく写ってしまうと映画に入り込むのは少々きついかもしれない。

 見所はなんと言っても後半の佐和子の変身振りである。ほとんど開き直りとも思える剛腕を発揮して傾きかけていた会社の立て直しに全精力を傾けていくのだが、これが何とも痛快だった。何事に対しても冷めた態度だった佐和子が、熱い情熱を持った女性へと変身していく。そこにカタルシスを覚えた。

 また、そこに至るまでのドラマのスパイアラルアップも上手く組み立てられていると思った。
 佐和子はずっと父を憎んでおり、本当は実家になど帰りたくなかった。しかし、父が自分をどんなに愛していたか、どんなに大切に思っていたか。それをを知ることで憎しみが解消される。その瞬間、佐和子は本気で会社を立て直そうと決心するのだ。この佐和子の内面変化は実に周到に構成されている。見ているこちら側に、彼女の思いがすんなりと入ってきた。

 更に、この物語には佐和子と父の関係以外に、佐和子と連れ子の関係も描かれている。ここにはもう一つの彼女の成長が読み取れる。言わばこれは佐和子の母性の開眼という言い方が出来るかもしれない。
 実は、佐和子は幼い頃に母親を亡くしている。母の遺影を肌身離さず持っていたことを考えれば、佐和子は今でも母を愛しているのだろうが、彼女は母の愛を知らずに育った女性である。そんな佐和子が、連れ子に対して良き母親たらんとする姿は実に神々しい。それが最もよく感じられるのは、幼稚園へ送り迎えをするシーンである。これはもう完全に一人前の母親の姿である。あの佐和子が‥と感動的だった。その前段、動物園でのやり取りとの対位演出も上手く効いている。

 佐和子を演じるのは満島ひかり。石井監督のオフビートな演出には上手くハマっていた。ただ、序盤の大仰な演技には少し違和感を持ってしまった。ここはもっと淡々としてても良かったかもしれない。
 一方、後半からの意気揚々とした演技は上手かった。特に、工場のおばちゃんたちに「所詮私は中の下ですから!逆にそうじゃない人がいたら手を上げてください!そうでしょ!皆そんなもんなんですって!だから頑張るしかないんですって!」とタンカを切る所は素晴らしい。彼女にはこうしたハイテンションな演技がよく似あう。また、ラストシーンの演技も印象に残った。女優・満島ひかりの良い部分が上手く出た1本だと思う。
[ 2015/01/23 00:25 ] ジャンルコメディ | TB(0) | CM(0)

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