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グリズリーマン

熊になりたかった男の話。
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(2005/12/26)
Timothy Treadwell、Amie Huguenard 他

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「グリズリーマン」(2005米)星3
ジャンルドキュメンタリー・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 アラスカの大地でグリズリーの保護活動をしていた男ティモシーに迫ったドキュメンタリー映画。

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(レビュー)
 野生の熊の群れに入って約13年間、100時間に及ぶ映像を撮ったアメリカ人青年ティモシーを追ったドキュメンタリー映画。監督は鬼才V・ヘルツォーク。

 映画は、ティモシーが撮った映像と彼の周辺人物のインタビューで構成されている。作りとしては、いたって普通のドキュメンタリー映画で、特に奇をてらった所は無い。ただ、ティモシーの人となりに迫っていくこの淡々とした語りの中に、彼の人間性や製作サイドが彼をどのように見ているのか?といった複雑な思いが透けて見えてくるので、終始面白く見ることが出来た。

 まず驚いたのは映画の冒頭である。巨大な熊とティモシーが仲良く映っている映像から始まる。一般的に言って、熊は肉食の野生動物だから絶対に近づいてはいけない‥というのが常識的な考え方である。しかし、ティモシーは恐れるどころか、熊に名前を付けて親しげに話しかけたり触れたりするのだ。日本ではムツゴロウさんという動物好きなオジサンがいる。しかし、いくら彼でも野生の熊と一緒に戯れるなどしないだろう。はっきり言って、ティモシーの行動は常人には到底理解できないものである。

 また、彼はクマ狩りをする人間から熊を守るために戦っている‥と言っている。しかし、劇中で語られている通り、熊の狩猟は一定の範囲で許可されている行為である。しかも、その数は全体からすればほんの僅かである。ティモシーはそれを許せないと言っているのだ。この盲信的思考は、まるでどこぞの過激な自然保護団体のようで見てて共感を覚えるものではなかった。

 このように彼は自分の信念を持って、約13年間、毎年熊の活動期間になると森へ入ってテント暮らしを始める。しかし、気の緩みがあったのだろう‥。ある晩、寝ていた時に熊に襲われて殺されてしまう。その時は恋人も一緒だったそうである。

 映画の中では、その時に録音されたテープの存在が紹介されている。しかし、余りにもショッキングな内容のために作中では流されない。関係者のことを考えればそれも当然であろう。

 こうして見てくると、ティモシーはかなり変わった人間であることがよく分かる。そして、映画の中で紹介されている彼の半生を見ると、その考えは益々強まった。

 彼は幼い頃は動物好きなごく普通の少年だった。ところが、大学に進学する頃からドラッグとアルコールに溺れて、学校をドロップアウトしてしまう。その後、俳優を目指してオーディションを受けながら、躁うつ病の傾向があるということでカウンセリングを受け、結局、俳優になる夢は断念してしまう。こうした経歴を見てみると、もしかしたら彼は単に現実逃避をしたかった夢想家だったのではないか‥という見方も出来る。

 監督のヘルツォークも、この奇妙な青年にドラマチックな”映画的素材”を見出したのだろう。
 ヘルツォークのフィルモグラフィーには一つの特徴がある。最大の盟友、怪優K・キンスキーとの愛憎は、彼の作家としてのアイデンティティを決定づけたといっても過言ではない。そして、キンスキー演じる主人公は必ず孤高のアウトローだった。彼の主演作である「アギーレ・神の怒り」(1972西独)然り。「フィツカラルド」(1982西独)然り。そこには、何人たりとも寄せ付けない”狂人”の姿が写っている。ヘルツォークは、そのキンスキーと同じ匂いをこのティモシーに見たのではないだろうか。
 更に言えば、文明対自然という構図も過去作で何度も描かれてきた共通テーマである。ティモシーはその狭間で揺れ動く、言わばどちらにも属さないアウトローである。彼はその狭間で、誰からも理解されずに一人で格闘していた人間である。ヘルツォークがティモシーの半生をドキュメンタリーにしようとした理由が何となく分かってきて面白い。

 ティモシーを怪優K・キンスキーが演じるアウトローに重ねて見て、彼を変り者と一蹴することは容易い。しかし、同時にそこには我々一般人を惹きつけてやまない”奇妙”で”狂った”魅力も確かに存在する。自分は、世界の片隅にこんな青年がいたのか‥という思いで大変興味深く見ることが出来た。

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